あきづき空太著『赤髪の白雪姫』は月刊「LaLa」(白泉社)にて連載中の、大人気ファンタジーコミックです。2015年、2016年にアニメ化もされており、24話まで放映されました。私はアニメから作品を知り原作も読むようになりましたが、アニメは映像や音楽などが色鮮やかかつ、やさしく美しいイメージでした。一方の原作は内容はアニメと変わらないもののサラッとした印象があり読みやすく、どちらもすばらしいと思っています。
主人公である白雪という娘は、りんごのような赤い髪をもった薬剤師で、タイトルに「姫」とあるものの庶民の町娘です。髪色の物めずらしさから“バカ王子”と評判のラジ王子の愛妾にされそうになったので、母国であるタンバルンを離れ隣国のクラリネスに逃げたところ、森でクラリネス第二王子のゼンに出会います。
それをきっかけに、白雪はゼンと信頼関係を築き、対等な友人関係を続けていきます。その関係は恋愛にも発展していくのですが、恋愛はあくまで一要素。白雪をはじめ登場人物たちの生き方や、国や人が抱えるさまざまな問題を白雪や彼女を取り巻く人物らが解決していくことがメインの物語で、世界観を楽しむファンタジー作品として楽しめます。
この作品の魅力は、まずはなんといっても白雪の自立したキャラクターで、自分で運命を切り開いていく姿でしょう。白雪の赤い髪はこの世界でもマイノリティです。同時に美しくもあるためそれを珍しがられ、売ろうとする輩にさらわれることも多く、白雪はいくつもの困難に遭遇します。
ピンチに遭っても心強いヒロイン
ふつうの漫画であれば助けを待つシチュエーションですが、彼女はいつも自分で機転を利かせ、ピンチを切り抜けようとします。手持ちの麻痺作用のある薬を燃やして逃げようとしたり、矢を射られても剣を構えられたりしても怯みません。「身体能力が高いわけでもないのに……白雪さん心強すぎやしませんか?」と思うくらいです。彼女がひとりでさんざん試行錯誤したり、戦ったけどどうしようもなくなったりしたときだけ、助けが入ります。
ゼンと友人になった白雪は、自分と同様に運命を自分で切り開こうとするゼンの生き方や王子であるゼンの、民を想う姿勢に共感します。同時に彼が抱える重圧を知り、その力になりたいと考え、味方になるために宮廷薬剤師を目指します。王子の友人だからとその威光を使うのではなく、自分の力で堂々と城に出入りできるようにしていくのです。
この作品には、男女問わず魅力的な登場人物が登場します。女性には芯の強いキャラが多く、たとえば王子の側近のキキは剣に長け、機転も利く女性です。白雪の職場の薬室長も、女性です。
そしてやはり少女漫画ということもあり、男性キャラも魅力的です。ゼンの側近であるオビは、白雪に密かな恋心を抱きつつ、主であるゼンのことも同じくらい敬愛している青年で、飄々として猫のような雰囲気があります。白雪のことを「お嬢さん」と呼び、いつもおどけて安心させてくれています。しかし無理をしがちなゼンと白雪を支え、必死に守ります。
最年少の宮廷薬剤師で白雪の上司にあたる少年リュウは、高い知能を持ち冷静であまり感情を表情に出しませんが、時折そのなかにも年相応の純粋さが見える、かわいらしい一面のあるキャラクターです。
ふたりともそれぞれに白雪と相性がいいので関わるシーンの雰囲気が柔らかく、心情の動きが見えてとても素敵です。ヒロインの相手役として主役に据えてもいいと思えるくらいのキャラクターたちです。
しかし、この作品の醍醐味は、白雪と関わることで登場人物が前向きに変化していくところにあります。白雪は自分を持ちながら、他人にも正面から向き合います。芯はあるものの攻撃的ではなく、真摯な姿勢を持っています。
なかでも、最初に雑魚キャラかつ悪役として描かれていたはずのラジ王子との関係は、見事でした。白雪のことを興味本位で愛妾にしようとした、あの王子です。白雪は気まずがって自分から逃げるラジ王子とも話す機会をつくり、自分の考えをしっかり伝え、問い、話を聞き、友人関係を築いていきます。
結果、ラジ王子は「白雪殿に恥ずかしくないように」という思いから、「白雪殿が帰りたいと思える国にする」ことを目標に公務や勉学に励むようになります。そして白雪にとって頼れるよい友人になり、後に彼女がピンチに陥ったときには助けになってもくれるのです。
恋愛がメインではない
ヒロインの相手役になるゼンは、厄介事を起こす自分の赤い髪を「毒林檎」にたとえる白雪に、その髪は「運命の色」だと肯定します。しかし、ゼンは白雪の赤い髪が特別好きだというわけでなく、その人柄に惹かれていきます。
白雪も自分の特徴である赤い髪を活かして動いてはいません。赤髪はあくまで彼女の一要素にすぎず、彼女の人柄と実績が評価され、それによって道を切り開いていきます。彼女と親しい人物たちが赤髪で不利益を被らないよう気を配りながらも、普段は特に意識しないという状態は、マイノリティ性を持つ人物にとって心地良い温度感だと感じます。
『赤髪の~』をはじめ、白泉社の少女漫画にはいくつか共通点あります。私は自分が好きな漫画に白泉社の作品が多いことに最近気づきました。
佐々木倫子著『動物のお医者さん』をはじめ恋愛要素がない作品も少なくなく、全体的にストーリー性が高い傾向にあります。
また絵夢羅著『Wジュリエット』、池ジュン子 著『水玉ハニーボーイ』(すべて白泉社)などジェンダーが逆転する作品もたびたび見られ、フェミニズムにつながる作品が多いと感じます。