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『はじめてのおつかい』を純粋に楽しめなくなった複雑な感情

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はじめてのおつかい

『はじめてのおつかい』webサイトより

 18日放送の『はじめてのおつかい!! 爆笑! 2018年大冒険SP』(日本テレビ系)は、平均視聴率15.0%(ビデオリサーチ調べ)と高視聴率をマークした。プロボクシング元WBC世界バンタム級王者・山中慎介氏(35)の2人の子供たちが「おつかい」にチャレンジしたということもあり、反響が大きかったようだ。

 小さな子供が人生で初めてひとりで、あるいは兄弟姉妹だけで「おつかい」にチャレンジする様子に密着する『はじめてのおつかい』は、1980年代に開始して以来30年近くに渡って親しまれている番組だ。25歳くらいの子供が、親から買い物や用事などのおつかいを頼まれ、道を間違えたり、商品の名前を言い間違えたり、お金が足りなかったり、兄弟げんかになったりといった様々なアクシデントを乗り越えながらおつかいを成し遂げる。

 子供たちが本当に「ひとりで」おつかいをしているかというと、実質はもちろんそんなわけがなく、子供自身は気づいていないがスタッフによる細やかな安全配慮がなされている。その上で、親はあえて、買ってきてほしい物を書いたメモを渡すのではなく、口頭で子供に「これとこれをお願い」と伝える。しかも口頭で伝えるわりには、おつかいの内容はちょっとややこしいものだったりする。2軒以上のお店に行かなければならなかったり、鮮魚や精肉の銘柄も伝えたり、サイズ指定があったり……といった具合である。小中学生に頼む時、いや大人同士だってメモを書いて渡すだろうというほど、細かい「おつかい」が多い。

 たとえば18日放送分では、211か月の女児が、まずお店で買い物をして、その際に発生したおつりを使って神社でお参りをする、というおつかいにチャレンジしていた。3歳の男の子が、コメリに行って家の棚にピッタリなサイズのかごを買ってくる……というのもあったが、大人だってメモなりスマホに品番記録するなりしなければわからなくなる。メモを渡さず、ややこしい内容のおつかいを頼んだほうが、アクシデントが発生する可能性が高まって、ハラハラドキドキするVTRになり面白いのだろう。

 視聴者だってそんなことはわかって見ている。おつかいのからくりだけでなく、どんな展開が待ち受けているかだって予想したうえで、「おつかいをする子供たちの可愛らしくて健気な姿」には何度見ても笑いと涙を覚えるのである。安全面には十分配慮しているし、登場する親だってまさか普段の生活で未就学児をおつかいにやってはいないだろう。放送されるからには、登場する子供たちに危険はない。日常の範囲内での安心安全な大冒険で、親子にとっての良い思い出づくり。視聴者にとっては、よその子供のかわいらしさを愛でて楽しめ、もらい泣きもできる番組だ。

 そう認識してはいるものの悶々としてしまうのは、あえて小さな子供にはちょっと難しいおつかいにチャレンジさせて、困っている様子を観察することに抵抗を覚えるためである。特に自分自身が子供を産み、育てる立場になってからはなおさら複雑な感情を抱くようになった。子供が挫けそうになりながらも困難なおつかいを無事達成して帰宅すると親は感動の涙で我が子を迎える。そこに親のエゴが色濃く映っているように見える。要するに、発達に見合わない無理難題にチャレンジすることが子供のためにはなっていないのではないか、大人が感動するためにやらせているだけではないか、ということだ。

 同番組でおつかいにチャレンジする年齢(25歳頃)の子供たちは、通常ひとりで外出する機会などないだろうし、おつかい自体が困難な課題だ。番組で子供たちは大抵、急遽おつかいに行かされることになる。行きたくないと泣き出し、家の前の道路に出てもなかなか歩き出せない子もいる。道中も、不安や混乱で泣き出してしまうことがある。大人が癒されたり楽しんだりするための娯楽に、まだ何もわからない段階の子供を付き合わせていることに、うっすら罪悪感を覚えてしまう。成長すれば一人でどこにでも行けるようになるのに、わざわざ発達度合いを無視したハードな試練を与えなくても、と。確かによく出来た番組ではあるのだが、安全配慮はもちろんのこと、少なくとも「一人でやってみたい」とはじめてのおつかいに憧れを抱き志願する子供が出演すれば良いのではないだろうか。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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