カヌー薬物混入事件、五輪出場への焦りの背景

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カヌー薬物混入選手に見え隠れする妻へのコンプレックス、義父からのプレッシャーの画像1

Photo by Donald Judge from Flickr(※イメージ画像)

 スポーツ界を騒がせている、カヌー薬物混入騒動。カヌー競技の鈴木康大選手(32)が、後輩の小松正治選手(25)の飲み物に禁止薬物を混入し、ドーピング違反で選手生命を断とうとしたものだ。騒動の発覚により、鈴木選手は金銭の盗難や競技に使うパドルの破損、メールでの誹謗中傷を8年前からしていたとも明らかになった。

 鈴木選手は学生時代から将来を有望視されていた選手で、これまでに世界選手権やアジア大会に出場してきたが、五輪出場だけは果たせなかった。2016年にリオ五輪の出場を逃したことを機に現役を引退したが、五輪への夢を諦めきれず、現役復帰。その矢先に発覚したのが、今回の騒動である。鈴木選手は「若手が台頭してきて、実力も伸びてきた」という理由で小松選手を狙ったと証言している。

 ニュースなどでは、「五輪に出場するため、才能ある若手を潰したかった」との動機が報じられている。鈴木選手および周囲の証言からは、妻へのコンプレックスと義父からのプレッシャーに悩んでいたことが、五輪出場を焦る背景にあったことがうかがえる。

 鈴木選手の妻の久野綾香さんは北京五輪で入賞した元カヌー選手。「週刊文春」の取材に応じた日本カヌー連盟関係者は「どうしても『夫婦揃っての五輪出場』の肩書きを諦められず、東京五輪に向け、16年から現役復帰していた」と明かす。鈴木選手自身、文春の取材に「オリンピアンの妻に追いつきたい、オリンピックに出場したいの一心で卑怯なことをしてしまいました」と答えている。

 鈴木選手は結婚後、福島県二本松市に拠点を移し、義父が社長を務める久野製作所に入社。同社のスポーツジムを夫婦で経営しながら、競技に打ち込んでいた。「NEWSポストセブン」によれば、ジムの経営も現役続行も義父の支援があってのものだという。「妻だけが五輪出場経験」「義父の支援を受けている」「でも自分は五輪に出場できそうにない」……負い目を感じ、焦燥感が募ったのかもしれない。

 義父も「週刊文春」および「NEWSポストセブン」の取材に応じている。義父は夫婦で五輪出場経歴があれば、後輩を指導する上できっと役に立つと思い、「『頑張れるなら頑張れ』と復帰を後押ししていた」そうだ。そもそもジム開設の理由は、「地元の子どもたちの中から娘に続く選手がひとりでもふたりでも出てくれたら」という願いもあったという。妻へのコンプレックスや義父へのプレッシャーに悩んでいたとしても、鈴木選手の行為は、ひとりの選手の選手生命を絶ちかねないもので許されない。

 ちなみに、義父は鈴木選手の今後について、「彼はカヌーしかやってこなかった人間」とした上で、「彼のこれからに関して、たとえば僧侶となって、一から禅の道を歩むというのも、自分自身に置き換えて考えたりしております」「彼に提案してみたい」と話しているが、今後の道は鈴木選手自身が決めるものだ。長く考える時間が必要だろう。

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