投票を! 中間選挙に賭ける

「人々の力は、力を持った人々(権力)をしのぐ」
「投票は重要だ」
「それでもなお女性はしつこくがんばる」
※最後のフレーズはチェルシー・クリントンの女性偉人伝絵本に基づく
昨年のウィメンズ・マーチの主戦場は首都ワシントンD.C.だったが、今年のマーチのメインは、1カ所だけ1日遅れの21日におこなわれたネヴァダ州ラス・ヴェガスでのものだった。
ヴェガスのマーチは「Power To The Polls」(投票の力)と名付けられた。2016年の大統領選から2年後となる今年11月は中間選挙がおこなわれる。オバマ政権の途中から上下院ともに共和党が多数派となっているが、昨年のトランプ政権のカオスにより、民主党が勢いを盛り返している。くわえて、トランプの女性差別、同時に巻き起こった#MeTooムーブメントの影響も大きく、今年の中間選挙にはかつてない人数の女性候補者が出馬すると言われている。
ウィメンズ・マーチ主催者が「投票」にフォーカスしているのは、これが理由だ。単にアンチ・トランプを唱えるだけでなく、実際に政治を、国を、自分たちの手によって変化させようとしているのだ。そのために民主党地盤のリベラルなニューヨーク州などではなく、共和党と民主党、保守とリベラルが拮抗している「スウィング・ステイト」(揺れる州)と呼ばれるネヴァダ州が選ばれたのだった。
マイノリティ女性が参加できない理由
ウィメンズ・マーチの主催者はイスラム教徒、ラティーナ、黒人、白人の4人の女性だ。彼女たちは人種も信仰も超えたすべての人の連帯を呼びかけている。
しかし、ウィメンズ・マーチの参加者の圧倒的多数は白人だ。ニューヨークでのマーチにはニューヨーク市外からの参加者も含まれているとはいえ、ニューヨーカーの7割近くを占めるラティーノ、黒人、アジア系といったマイノリティを見掛けることは少なかった。
理由はマジョリティである白人と、人種的マイノリティの分断だ。以下、マーチを主導した白人女性たちへの非難では決して無く、しかしマイノリティの心情を説明してみたい。
マーチ当日、マンハッタンの黒人地区ハーレムに住む私はマーチに参加すべく地下鉄に乗った。するとハーレムのメインストリートの駅で多くの白人女性たちが乗り込んできた。ピンクのプッシーキャット帽をかぶり、それぞれ工夫を凝らしてつくったプラカードを持ち、楽しそうにお互いの写真を撮っている。
まったく問題のない風景だ。独裁者トランプにアンチを唱え、アメリカを良くするためのマーチに参加しに行くのだから。しかし、黒人やラティーノの乗客たちはどことなく鼻白んだ表情で眺めている。「……ふ〜ん……」という声が聞こえてきそうな顔つきだった。
マジョリティの最大の特権は「無邪気でいられる」ことだろう。悪いと思ったことにはすぐさま反対を唱え、良いと思ったことには賞賛を送る。これが素直に、ほぼ反射神経的にできてしまい、それを楽しめる。だが彼らはマイノリティとなった経験がないため、マイノリティ側の微妙な心情を読まない、読めない。
マイノリティも、いや、マイノリティこそトランプに辞めてもらいたがっている。トランプの排斥ターゲットとなっているのは自分なのだから。だが、歴史的、社会的、経済的に圧倒的な優位にある白人が満面の笑顔で「さぁ!みんなで参加しましょう!」と明るく呼びかけるマーチに同じ「ノリ」で参加することはできないのだ。「だってあなたたちマジョリティは、私たちマイノリティのことを本当には理解していないでしょ」と思ってしまう。さらには「あなたたちだって無意識かもしれないけれど、マイノリティを差別してるし」と、そこまで思ってしまう。