
ピンクのプッシーキャット帽を被ったリンカーン像
それを如実に表すエピソードがあった。マーチのルート(マンハッタンの高級住宅地区)にリンカーン大統領の等身大の銅像がある。その像に誰かがピンクのプッシーキャット帽をかぶせていた。ユーモラスで微笑ましい光景だった。私も写真を撮った。
マーチの翌日、ハーレムにあるハリエット・タブマンの銅像が、やはりプッシーキャット帽をかぶせられている写真がSNSにアップされていた。それを見た多くの黒人女性が不快感を表していた。
ハリエット・タブマンは1820年頃に奴隷として生まれた黒人女性だ。子供の頃に奴隷主から虐待された際の頭部のケガの後遺症に一生苦しみながら、自身の命も顧みず、奴隷を逃す「地下鉄道」と呼ばれる組織で活動した女性だ。過去の黒人女性偉人のなかでもとくに尊敬され、女性として、黒人として、初めて紙幣に登場することがオバマ政権時代に決められている(一部の共和党員がいまだに反対しているが)。
Dear white ladies,
Keep your pink hat off of #HarrietTubman head. You aren’t even worthy to touch her statue.#WomensMarch2018 “Women’s March in NYC” pic.twitter.com/cvxZ2IVymH— Margaret Kimberley (@freedomrideblog) 2018年1月21日
そのタブマン像にプッシーキャット帽をかぶせたのは、おそらく近年のハーレム再開発によって移り住んできた白人女性だと思われる。女性の存在、女性の自立をセックスも含めたユーモアとして表すのがピンクのプッシーキャット帽だが、タブマンには似つかわしくない。奴隷を解放した白人男性のリンカーンにジョークでかぶせるのとは意味合いが全く異なるのだが、白人女性にはその違いがわからないのだ。SNSの投稿写真には「侮辱です」「リスペクトを学びなさい」といったコメントが付いていた。
アメリカの課題〜人種・宗教・所得・性
過去にさまざまなカオスに見舞われ、そのたびに乗り越えてきたアメリカという国だが、トランプによるカオスはこれまで誰も体験したことのない類いのものだ。一般市民も政界も含め、アメリカ全体が混乱しきっている。それを自分たちの手でなんとかしようと始まったのがウィメンズ・マーチだ。
効果はある。マーチに参加すると、私たちは全米規模で連帯しているのだと実感する。時には感動で涙が出そうになる瞬間もある。同時に何千人、何万人もの白人女性たちの顔、顔、顔……を見続け、自分がいかにマイノリティであるかも再認識させられる。
私たちは一体となってトランプにアンチを唱え、辞任もしくは弾劾につなげなければならない。そのために今年の中間選挙でリベラル候補、女性候補を勝たせる必要がある。同時に、同じことを願っている人々のなかに存在する人種の垣根、宗教の垣根、性別の垣根、所得の垣根を取り壊していかなければならない。もしかすると、それを実現すればトランプのようなモンスターはもう誕生しないのではないか。つまり、トランプという怪物を生んだのは、実は分断している私たち自身なのである。
(堂本かおる)
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