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壇蜜が「殿方に尽くす」のは「欲しいものを自分で奪いに行く」ためだった/『男と女の理不尽な愉しみ』

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 111日放送の『ゴロウデラックス』(TBS)が、林真理子(63)と壇蜜(37)による共著『男と女の理不尽な愉しみ』(集英社新書)を課題図書として取り上げ、林真理子・壇蜜がゲストとして登場して稲垣吾郎(44)と恋愛論を繰り広げた。

 昨年11月に発行された『男と女の理不尽な愉しみ』は、林真理子と壇蜜が、恋愛、不倫、看取りなど“男と女を巡るあらゆる問題”について雑談を交わす内容。“男と女を巡るあらゆる問題”については誰でも、自分や自分の周囲にいる人たちの経験を踏まえた上で持論を持っているだろうが、彼女たちの場合はより人生経験が豊富そうな存在として貴重な言葉を期待する読者も多いのだろう。

 同書の「第一章 結婚したい女たち」で、壇蜜は、結婚に向く出会いがないと嘆く女性への回答として「損をしてみたら?」と提言している。この真意を、番組で稲垣は尋ねた。

『多くの女性って、ずっと「得したい」と思ってきたわけですよ。できるだけ損をしないように生きてきた結果、いまがあるんですね。だったら、いっぺん損をしてみるのもいいんじゃないかと思うんです。いままでなら「この男とは無理!」と思って避けていたような相手と寝てみたら? と(笑)』(『男と女の理不尽な愉しみ』p24

 この一文について説明を求めるかたちで、次のように会話が進行していった。ちなみに壇蜜は昭和女子大学附属昭和小学校から内部進学で中学高校と進み、昭和女子大学を卒業している。

壇蜜「『しなくてもいい苦労をする』という人生のモットーがありまして」

稲垣「しなくてもいい苦労?」

壇蜜「しなくてもいい苦労をすると、自分に若干の余裕みたいな、愛情みたいなものが広がっていくような気がして。おそらく奉仕活動とかボランティア活動みたいなものを散々叩き込まれて育ってきた環境……学校がそうだったので。それに大人になってもまだ捉われていたので。だったら、しなくてもいい苦労を、あえて損してみる時間を、無理矢理設けて否定しないで生きてみようかなって思うようになったんです」

「それはこういうことですか? こんな男と付き合ったって仕方ないと思っても、言い寄られたらちょっと付き合ってみて、無駄な時間も過ごして、それで初めてわかる愛情だとか男の人の良さもあるということ?」

壇蜜「……そうですね。相手もまたそれを無駄だと思っていたら、それは問題かもしれないですけど、相手が楽しそうにしていたらそこに価値が出てくるなあって思って」

「女神のようじゃないですか」

壇蜜「ただ私は一人なので、それをできる人(相手)は一人だけなので、ある意味不平等ではありますよね。みんなにできるような増殖システムみたいなのがあればいいんですけど、生憎一人なので」

「本の中で『そういう付き合い方するとあなた男にいつか恨まれるよ』って言ったら『首絞められた』って」

壇蜜「そうですね、大概首狙ってきますね」

「よく無事で生きてきたなと思って」

壇蜜「そうです。死んだおじいちゃんが後ろに憑いているので多分大丈夫です」

 しかしこれだけでは誤解が生じるかもしれない。壇蜜が誠心誠意、一人の殿方に尽くす従順な女性かといえば、それはまた別の話だからだ。彼女は気まぐれでもあり、主体的に行動を起こす。支配され可愛がられる籠の中の鳥になりたいのではなく、「欲しいもの」を手中におさめるべく能動的に動く人だということが、同書の発言からわかってくる。

 たとえば壇蜜は、好きになった男を自分から口説くという。ジッと目を見つめて誘われるのを待っていても始まらないゆえ、『男の人を酔わせて、こっちから行く(笑)』。さらに逃さないために『相手の居場所をつくることだけに専念する』。

『自分の欲しいものを手に入れるためなら、自分の自由をちょっと我慢してでもやらなきゃいけないことが絶対にあると思うんです』P44

『自分のユートピアやアルカディアを大事にしたいなら、口説かれるのを待つより、自分から欲しいものに手を出したほうがいいんですよ』P45

 こうした価値観は、林真理子の世代の女性にとっては馴染みにくいものだろう。女性から誘って断られたら恥だというプライドもあるだろうが、それだけではなく、女性は男性から強く求められて応じる形でなければ、あとで調子に乗った男性からひどい目に遭わされてしまう、との警戒心がそこにはある。

 しかし一方で、その恋愛作法に「乗れない」性格の女性も少なくないのである。そして壇蜜も、ギブアンドテイクの恋愛関係に魅力を感じず、損得ぬきに自分がしたい相手とする。だから壇蜜は、「結婚したい女子」にこう言いたいのだと思う。周りの変化を待っていないで貴女が動けばいいんじゃないの、と。どうせ無傷で生きていくことなど難しいのだから。

 そんな彼女の価値観が「正解」ではない。そこに正解なんてないからだ。恋愛や結婚などは究極にプライベートな事案で、ひとりひとり違う答えを持ち得る。壇蜜は、「得したい」という我欲を脇に置き、殿方に尽くす経験を持って成長することを女性に促すが、それもひとつの価値観というだけのこと(何より彼女の人生のモットーは誰も否定できない)。その価値観に共鳴する女性は実行してみればいいと思う。

 ただ、壇蜜と林真理子が『多くの女性は得したがっている』という前提で話を進めていくことには異論を唱えたい。「得したい」のは女性特有の性質なのだろうか、そもそも「得したい」と思うことはそんなに不健全なことか? 一般に“女性は「得したい」という気持ちが強く、打算的な生き物”というイメージが蔓延しているような気もするが、立場の維持や向上を目論みうまく立ち回ろうとする人物は老若男女を問わないだろう。

 また、壇蜜の結婚問題に林真理子が『お母さんになられるの嫌かもしれない』『母親になると女の人って凡庸になっていくから。やっぱり母性って女の人から色んなものを与えると同時に奪うと思うんだよね』と持論を展開しているが、そこにある“母親像”は一面的で貧相だ。

 その他セクハラやLGBTなどにも言及しており引っかかる箇所は多いのだが、とはいえ壇蜜と林真理子の価値観がほとんど相容れない点は面白い。しかも作家として大先輩である林が提示する保守的な男女の恋愛観を、壇蜜が「私のやり方はみなさんとは違うので……」とやんわり否定する(そして林が「さすが壇蜜さんだわ」と褒めちぎる)構図になっているのに、最終的には似たもの同士のようにも見えてくるのだ。かつては林真理子が「私のやり方はみなさんとは違う」と新しい価値観を提示するポジションに立っていたからだろう。

 前述したような壇蜜のモットーや恋愛観に嫌悪感を覚える女性は少なからずいるだろうが、林真理子的な価値観での恋愛・結婚を試みて迷走している自覚がある女性にとっては、一読の価値はあるかもしれない。

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