
満員電車って解消できるの? Photo by rahims from Flickr
近年、痴漢や痴漢冤罪がメディアで多く取り上げられ、関心を集めています。しかし、現状では両者の問題がごちゃ混ぜにされたり、乱暴な男女対立の構造に落とし込まれたりして、議論が混乱しています。私は「痴漢行為をなくすべきである」という大前提のもと、「そのためにはどうしたらいいのか」をさまざまな専門家から知識を集め、総合的に考える必要があると思います。
そのひとつに、満員電車も含まれます。満員電車は加害者にとって痴漢を行いやすい環境となっているため、それが解消されることで痴漢を減らせるのではないかと考えています。そこで、鉄道の混雑を取り巻く現状と、満員電車をなくすための施策、さらにはそれを実現するための課題について、満員電車解消に取り組む、交通のコンサルティング会社「株式会社ライトレール」の阿部等さん(代表取締役社長)と佐々史人さんにお話をうかがいました。
阿部さんは、2008年に満員電車をなくす方策をまとめた『満員電車がなくなる日』(角川SSC新書)を出版し、その帯に推薦文を寄せた小池百合子さんは、2016年の都知事選で「満員電車ゼロ」を公約の1つとして掲げ、当選しました。『満員電車がなくなる日 改訂版』(戎光祥出版)はその本に加筆修正をし、同年に出版したものです。
卜沢:まず最初に、痴漢発生と満員電車の関係について阿部さんはどう思われていますか?
阿部:間違いなく100%関係しています。現実に痴漢はそんなに起きていないという人もいるようですが、私の大学時代、クラスの女子学生から「東京で電車通学していて痴漢にあったことがない女の子なんて1人たりともいない」と教わりました。30数年前の話ですが、それ以来「多くの女性が痴漢被害に遭っている」と考えています。
満員電車は匿名性の高い空間になる
卜沢:電車内での痴漢はどのくらい起きているものでしょうか?
阿部:統計データはどこにもなく、正確な数値は誰にも分かりません。これからお話するのは、痴漢冤罪が今ほど話題にならず、電車の混雑も今より激しかった、たとえば10年くらい前の私の推測です。
首都圏の鉄道利用者は1日に4000万人、4分の1が満員電車に乗るとして1000万人、うち女性は半分として500万人です。
・痴漢を受ける確率が500分の1として1万人
・女性が駅へ引き渡すのが、その1000分の1として10人
・男性が線路へ逃走するのが1000分の1として100日に1人
・死亡事故が50分の1として15年に1人
という計算になります。最近は、4000万人の5分の1の800万人が満員電車に乗り、女性は400万人、痴漢の確率が2000分の1に減って2000人、駅へ引き渡すのが200分の1に増えて10人、男性の線路逃走が100分の1に増えて10日に1人、死亡事故が50分の1として1年半に1人といったところでしょう。細かな数字を言いましたが、10年くらい前に首都圏で毎日1万件くらい、今でも2000件くらい痴漢事件が発生しているだろうという、ザックリの予測です。50年くらい前は毎日数万件だったでしょう。
卜沢:満員電車じゃなくても痴漢に遭うことはあります。私はJR宇都宮線に乗っていたときに、人がいなくてガラッとした車両で痴漢がすぐ隣に座り、触られた経験があります。だから痴漢が起きるのは満員電車“だけ”ではないとよく知っているのですが、それでも車内の混雑がひどくなるほど、痴漢にとっては触りやすい状況にもなります。
阿部:満員電車でなくとも起きる痴漢は、もはや暴漢ですね。
卜沢:はい。加害者臨床を行う斉藤章佳さんの著書である『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)によると、満員電車では、それを構成するひとりひとりがどこの誰かといったことがどうでもよくなる……つまり匿名性の高い空間になるので、何かあっても責任の所在が曖昧になります。そうすると満員電車をなくせば痴漢問題の一部は解決するんじゃないかなと考えて、そのスペシャリストである阿部さんにお話をうかがいたいと思いました。
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