「高齢者ホーム」化する刑務所 高齢女性犯罪者の8割が万引きで捕まっている。

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刑法犯 高齢者の検挙人員の罪名別構成比(『犯罪白書』平成29年版)

 1月29日放送のFNNニュースによれば、今、刑務官の離職率の高さが問題になっているという。3年で4割以上の人が辞めてしまうのだが、その理由の1つが「受刑者の高齢化」だそうだ。

 例えば、岐阜県の笠松刑務所(全国に9カ所ある女子刑務所の1つ)では、高齢のため足腰が弱り手押し車を使用する受刑者や、刑務官の指示に従って迅速に動くことができない受刑者が少なくないため、刑務官の負担が増えた。2年前から、受刑者同士で助け合う仕組みを作ったり、介護福祉士の資格を持つ非常勤職員を雇ったりすることで、刑務官の負担軽減を図っているという。

 実際に犯罪者の高年齢化、特に女性犯罪者の高年齢化は目立って進んでいる。

 最新の『犯罪白書』(平成29年版)によれば、女性の検挙者全体に占める50歳以上の割合は、1998年までは概ね20%未満だったが、2004年には30%を超え、2010年からは40%以上で推移し、2016年には50%を超えた。

 65歳以上の高齢者に限ると、1993年までは5%程度だったが、2001年には10%を、2008年には20%を、2014年には30%を超え、2016年時点では34%に至った。ちなみに2016年の男性高齢者の割合は全年齢層の17%である。

 高齢女性に多い罪名は「万引き」である。昔から「万引きは女性の犯罪」と言われてきたが、統計を見ると、確かに女性犯罪全体に占める万引きの割合はとても高い。検挙人員に占める割合は、男性が22.9%であるのに対し、女性は61.8%である。

 とはいえ、人数にすると男性が41294人、女性が28585人なので、女性の万引き犯の方が多いというわけではない。そもそも検挙人員の総数が男性18120人、女性が46256人と、圧倒的に男性の方が多い。いずれにしても、「女性犯罪者に占める万引き犯の割合が高い」ということは事実である。

 年齢層を65歳以上の高齢者に限ると、男女とも万引きの割合は大幅に増え、男性は45.7%、女性はなんと803%となる。罪を犯し、検挙された高齢女性の8割が万引きで捕まっているのだ。

 万引きをする動機や背景としては、物を盗むのだから当然「経済的困窮」が挙げられるが、『犯罪白書』では女性の場合、身体や精神に疾患を抱えている人の割合が多いということが指摘されている。特に若い年代では「摂食障害」の女性が目立つという。

 万引きと摂食障害の関連性は、多くの専門家が指摘している。昨年7月に元マラソン選手の原裕美子さんが、摂食障害に因る万引きで逮捕されたことも記憶に新しい。原さんは

名古屋国際女子マラソンと大阪国際女子マラソンで優勝し、世界陸上の女子マラソンにも2度出場している。アスリートとして体重管理を行う過程で摂食障害となり、万引きを繰り返していた。

 また、いわゆる「窃盗症(クレプトマニア)」も女性に多いとされており、月経との関連性が指摘されることもある。しかし月経時に万引きが多いというのは、まったくの俗説である。

 万引きの動機や背景を高齢女性に限ると、他の年齢層に比べ「近親者の病気・死去」「家族と疎遠・身寄りなし」の割合が高く、再犯率が高い。したがって、再犯を防ぐためには心理的なサポートや就労支援などが必要となる。

 2013年に「更生緊急保護の事前調整」が始まった。これは罪を犯したり嫌疑をかけられたホームレスや知的障害者、アルコール依存症患者などが釈放、あるいは起訴猶予処分となった場合、彼らに宿泊場所や医療の提供、金品の給与・貸与、職業訓練などを行い生活環境の改善や調整をはかるものだ。事情のある高齢者も対象となる。このシステムはまだ試行段階であるが、今後の充実が望まれる。

 万引きに限らず、『犯罪白書』に掲載されている各種統計からはかなりの「男女差」が読み取れる。それは生物学的性(セックス)に因るものなのか、社会的性(ジェンダー)に因るものなのか、あるいは両方ともなのか。

 「家族と疎遠・身寄りなし」の高齢女性たちが「近親者の病気・死去」をきっかけとして万引きを犯すのであれば、それは生物学的性に因るものだとは言えない。また、若い女性に多い摂食障害が万引きの原因となることは否定できないが、そもそもなぜ若い女性が摂食障害に陥りやすいのかという社会的背景に目をやれば、こちらも生物学的性に因るものだとは言えないだろう。

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