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『あさイチ』で特集、DVは痴話喧嘩じゃない。「なぜ逃げないのか」「そんな人とどうして結婚したのか」という“素朴な疑問”も人を追い詰めてしまう

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Photo by dualdflipflop from Flickr

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 129日放送の『あさイチ』(NHK系)の特集は「DV 加害者の声から考える」でした。内閣府の調査(平成26年度)によると、日本では4人に1人の女性が、配偶者間の暴力である「DV(ドメスティックバイオレンス)」の被害を受けた経験があるといいます。『あさイチ』では、特集「DV 加害者の声から考える」と題して、DV加害者の声に耳を傾けることによって解決の糸口を探すという試みがなされました。

 まずDVとは、殴る蹴るといった直接的な攻撃ばかりを言うのではありません。【身体的な暴力(平手で打つ、足で蹴る、物を投げつける、刃物などの凶器をつきつける等)】のほかにも、【精神的な暴力(大声で怒鳴る、無視、人前でバカにしたり命令口調で物を言う、人付き合いを制限する、電話や手帳を細かくチェックする、生活費を渡さない、仕事を辞めさせる等)】や【性的な暴力(セックスの強要、避妊に協力しない等)】も、DVに該当します。

 ところが、都内の民間団体が行うDV加害者向けプログラムに参加した男性たちは、「ぼくがやっていることは愛のムチ。暴力にあてはまらないと思っていた」「(妻を)大声で問い詰めたり、物を投げたり。叩いたりぶったり蹴ったりが暴力だと思っていたので、それをしていないから僕はセーフだと勝手に思っていた」と、自分の行為がDVだという自覚が乏しいようすでした。しかも彼らは一見、暴力的な男性には見えません。外では穏やかで腰が低く周囲への配慮が行き届いていて……だから周囲の人にも気づかれにくいのです。

 番組で紹介された加害者男性・Aさん(40代、自営業、妻と子供2人)は、妻への暴力がエスカレートして現在別居中。結婚前にも、相手が思い通りにならず暴力を振るったことがあったそうです。結婚後、暴力の頻度は増えましたが、AさんにDVの自覚はなく「自分が家の中では一番偉いから妻はそれに従うべき」「養ってやっている」「愛のムチ」と捉えていました。しかし結婚13年目のある日、妻の首を絞めて気絶させてしまい「このまま一緒にいると殺してしまうのではないかと思って」自分から家を出たという。当時についてAさんは「そういうことをさせる相手が怖い」と振り返ります。自分がひどいことをしている自覚よりもむしろ相手が悪いと思っていたのです。

 専門家ゲストの中村正氏(立命館大学産業社会学部教授/長年DV加害者の更生に取り組む)は、DV加害者の心理として3つの意識がはたらいていると説明しました。

・【所有意識】「この家は俺のものだ」「そこにいる人たちは従うべき」「妻と子供は俺のものだ」という意識。責任感とは違う
・【特権意識】「そこにいる妻と子供には何をしてもいい」「養っている」「稼いでいる」
・【被害者意識】「俺の暴力は正義だ」「正しい暴力」「愛のムチ」「家族の中で俺は立てられるべきであり、それをしないお前が悪い」

 体罰もそうですが、殴る側は「正義の暴力」だと信じ、周囲もそれを肯定することがあります。しかし家族に対する所有意識や特権意識のもとで振るわれる暴力が果たして「正義」でしょうか。

 同じく専門家ゲストで弁護士の斉藤秀樹氏は、「支配しようとする人(=DV加害者)は、暴力はあくまでも支配するための手段、パートナーを支配する・意のままに動かすための道具として使っているので、身体的な暴力を伴わずに家族を支配するパターンも多い」と指摘。

 中村教授は、物理的な暴力の行使のみならず、それを通じて相手をコントロールすることも含めて、DVとは「力による支配」だと定義します。わかりやすい定義です。

 番組では視聴者から寄せられた質問も紹介されましたが、「DVをするような男性を好きになる女性とは、どのような女性なのでしょうか? 女性にも何か問題があるような気がするのですが(男性)」という内容がありました。これは典型的な、「そんな男を選んだ女も悪い」論であり、あるいは「M気質の女性はDV男性に惹かれる」という言説や、「女性が従順でないから男性が暴力を振るってしまう」といった誤解につながる質問です。

 この質問を受けて中村教授は、「被害者がそこにはじめからあるのではなく、加害者によって作られていく」ことを説明。DV被害者は、被害に遭っていく中で【相当な恐怖感(密室性が高く、逃れられない)】【無力感(愛情を供給するのは女性の役割なのにそれが十分ではない、自分はするべきことをしていない)】【自責の念(自分も悪かったのではないか)】を持つようになります。これは加害者の他罰性の裏返しとも言え、そうした中で被害者観が作られていきます。だからこそ、DV問題を考えるときには、被害者の自己肯定感を高める取り組みも必要になってくるのですね。

 DVについて知識を持たず、「被害者はなぜ逃げないのか」「そんな男とどうして結婚したのか」と素朴な疑問を投げかけ、被害者側の問題を問う人は少なくありません。しかしそうした「素朴な疑問」の声は、DV被害者の自責の念をより強固なものにし、被害を訴え逃げることを躊躇う要因にもなり得るでしょう。

 また、番組では男性が加害者、女性が被害者という構図が紹介されましたが、妻が夫に身体的な暴力を振るうこともあれば、「大声で怒鳴る」「無視する」「人前でバカにしたり命令口調で物を言う」「人付き合いを制限する」「電話や手帳を細かくチェックする」等の精神的DVをすることもあります。男性が被害者にならないということはありません。

 親子や夫婦の関係性は、「支配/被支配」ではないものです。力による支配を受け、怯えながら生活・成長していくことが人間として幸せかどうか。少し考えればわかることではないでしょうか。DVは正義の暴力でも愛のムチでもなく、恐怖で人を支配する行為なのです。

DV相談ナビ
0570-0-55210(全国共通)
こちらの番号に電話をかけると、最寄りの相談機関の窓口に自動転送されます。
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/index.html

■配偶者暴力相談支援センター
各都道府県に少なくとも1か所設置されており、相談や、相談機関の紹介、被害者等の安全確保や一時保護などの支援をおこなっています。
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/01.html
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/pdf/center.pdf

■警察機関でも相談を受け付けています/警察相談専用電話 #9110
全国どこから電話をかけても、その地域を管轄する警察本部などの窓口とつながります。
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201309/3.html
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sodan/madoguchi/sogo.html

暴力は命を奪う危険性があります。緊急時は、迷わず110番通報してください。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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