懲戒処分された警察官の3割がセクハラなどの「異性関係」 課題が山積する警察の体制

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Photo by Dmitri Fedortchenko from Flickr

 ミシガン州の警察は今月1日、アメリカ体操連盟の元チームドクターであるラリー・ナサール被告から性的虐待を受けたというブライアンヌ・ランドール・ゲイの訴えに対して、「正当な治療であった」と主張する被告を信じ、捜査を打ち切っていたことへの謝罪を行った

 報道によれば、ナサール被告から暴行を受けたとされているのはランドール・ゲイの他に、五輪代表で金メダリストのギャビー・ダグラスなど265人に上っている。先月24日に、40年から175年の禁固刑が言い渡された被告だが、現在は別の性的暴行事件についても嫌疑がかけられており裁判の最中だ。裁判に出廷したランドール・ゲイは、事件当時レイプキットを提出したにもかかわらず、治療であるという被告の主張を捜査官が信じ込んだことについて「訴追にもいたらず、失望しました。無視されたと感じました」と証言していた。

 「スポーツ界内でのセクハラ・性暴力問題」は、日本も他人事ではない。

 スポーツ界での性暴力で最初に思い出すのは、アテネオリンピック、北京オリンピックに出場し金メダルを獲得した内柴正人が起こした事件だろう。

 内柴は現役引退後に就任していた九州看護福祉大学で、女子部員に対する準強姦容疑で逮捕されている。「合意していた」などと容疑を否認し続けていた内柴だが、大量に飲酒させていたこと、男性コーチらに口裏合わせを求めていたこと、複数の女性部員と性行為していたことなどが公判の中で明らかになっている。2014年に懲役5年の実刑判決が下され、昨年9月に仮釈放、同年12月に刑期を満了している。

 昨年11月には『サンデー・ジャポン』(TBS系)に出演した元サッカー選手の丸山桂里奈が、若い頃に、監督から「だーれだ」と目を覆い隠されたのち、胸元を触れたことを話している(「監督の手が胸にスライドして…」丸山桂里奈のセクハラ暴露に集まる冷ややかな声)。

 コーチなどの指導者が起こす性暴力・セクハラ事件はプロの世界に限らない。昨年5月には、大阪府堺市の公立高校で、男性教諭が顧問を務めるソフトテニス部の女子生徒を教室に呼び出し、全裸になれと強要。他にも抱き寄せる、「おとなになったらエッチしよう」などと発言していたことが明るみになっている。この男性教諭は他の生徒にもセクハラ行為などを行っており、堺市教育委員会は529日付けで懲戒免職処分を下している。

 #metoo運動が再熱する以前より、wezzyで繰り返し主張してきたことだが、セクハラや性暴力の問題の背景には、上司と部下、コーチと選手、教員と生徒など、立場の弱い人間が相対的に権力を持つ人間からの求めに抗い難いという、権力関係の非対称性がひそんでいることが多い。スポーツや部活動の世界では、指導者と密室で二人きりになることも多々あるだろう。そして、実績のある指導者やコーチに対して選手が異論を述べることのハードルの高さは想像するに容易い。冒頭で紹介した報道は、アメリカだから起きた事件ではないことがわかる。

 そのことは「スポーツ界内でのセクハラ・性暴力問題」だけでなく「警察の対応」についても言えるだろう。

 神奈川県にある横須賀米軍基地の近くで米軍兵士にレイプされたキャサリン・ジェーン・フィッシャーは、2015年に出版した『涙のあとは乾く』(講談社)で、日本の警察の対応の杜撰さを批判している。本書によれば、警察は「病院に行きたい」という彼女の求めを無視し、レイプされた現場で被害の様子を再現させるなどした、という。さらに、ようやくたどり着いた病院では簡単な診察しか行われず、レイプキットすらなかったと書いている。

 昨年ジャーナリストの山口敬之からレイプされたことを告発した同じくジャーナリストの伊藤詩織も、インタビューの中で「日本では、レイプキットで検査してくれるところって、病院の救急外来しかない」と指摘している。

 レイプの被害にあったとき、最初に考えるのは警察への通報だろう。その警察が、被害者に対してセカンドレイプとも言える対応を行い、さらに証拠保全のために欠かせないレイプキットすら用意していない。

 今月125日に警察庁は、昨年1年間に懲戒処分を受けた警察官・警察職員260人のうちセクハラなどの「異性関係」による処分が最も多く、全体の3割を占めていたことを発表している。対応・体制に明らかな問題があるだけでなく、警察内でもこの惨状だ。「訴追にもいたらず」どころか「証拠保全にもいたらず」が日本の現状かもしれない。

 #metoo運動などを発端に、セクハラや性暴力の問題に対して社会は敏感になっている。セクハラやセカンドレイプは、自身の立場や言動を改めることで被害の発生を抑えることができるものだろう。だが心がけだけでは、被害者に対するケアや「レイプキット」設置などの問題は解決しない。性暴力が問題として認識されにくいどころか被害者を責め立てるような風潮を批判していくとともに、いかに被害を食い止めるかなど、具体的な制度や体制についても考えていかなければいけない。
wezzy編集部)

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