高木菜那の金メダル報奨金に「野球選手だったら高いとは思わないはず」。ウインタースポーツの維持費用

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Thinkstock/Photo by AigarsR

 225日に閉会となった平昌五輪。日本選手団は冬季五輪で史上最多の13個のメダルを獲得、選手たちは27日に東京都内で解団式や帰国報告会、地元凱旋などを行った。28日放送の『ビビット』(TBS系)は、メダリストたちの報奨金についてボードを作成し解説した。

 たとえばスピードスケート女子で、新種目の女子マススタートと女子団体パシュート(団体追い抜き)の2種目で金メダルを獲得した高木菜那選手(25)には、JOCと日本スケート連盟からそれぞれ種目ごとに500万円、団体金も一人500万円ずつでもらえるため、合計2000万円の報奨金が贈られるという。高木菜那選手が所属する日本電産サンキョーは会長が「1番以外はビリだ」という信条だそうで、前回ソチ大会で「金メダル獲得は2000万円」と報奨金を設定していたため今回も前大会と同じなら高木菜那は金メダル2つで4000万円、総額6000万円の報奨金を手にするだろうと伝えた。(※実際に日本電産サンキョーは同日、高木菜那選手に報奨金4000万円を出すことと、3階級特進して係長になることを発表した)

 また、銅メダル獲得のカーリング女子日本代表・LS北見については、JOCからチーム1人につき100万円の報奨金が規定されているが、日本カーリング協会からの報奨金は現時点で規定がないという。協会は「お金がないので、ない袖は振れない」とのことだが、オフィシャルスポンサーの全農が米を100俵(ぶんのお米券)を提供するそうだ。ちなみに「チームメイト5人で食べたら20年分」としているが、チームを支えた関係者はもちろん何十人にも及ぶだろうし、5人だけで勝ち取ったメダルではないだろう。それは個人種目の場合であっても同様で、五輪二連覇を果たした羽生結弦(23)は、拠点にしているカナダ・トロントの老舗スポーツクラブ「トロント・クリケット・スケーティング&カーリングクラブ」で、ヘッドコーチのオーサー・ブライアン氏のもと、各分野の専門家を結集した「チーム羽生」を築いている。

 ひとりのアスリートが努力を重ねるのはもちろんのこと、結果を出すにはそれを支える多くの専門家が必要だ。それゆえ、『ビビット』司会の国分太一(43)が「競技により格差があるのかも」「清水選手の時代よりは金額は上がっている?」と、ゲストコメンテーターの長野五輪スピードスケート男子500メートル金メダリスト・清水宏保氏(44)に話を振ると、清水氏は饒舌だった。

「正直、(報奨金の額だけを見れば)すごくもらっているなというイメージはあるんですが、足りないと思います。年間の活動費で考えてみますと、道具代とかトレーナーさん、コーチ費用とかは、自分たちで出しますから、(報奨金をもらっても)そういった活動費に回っているのが実情です」
「報奨金が税金で出されていると誤解されるんですが、実際これは各連盟が捻出しているお金なので。そういった意味では、やはり日本カーリング協会はこれまで実績が少なかったので(お金がなく)、スケート連盟の方が過去の実績も含めて報奨金が上がってきているということです」
「これが高いか安いかで見ると、正直、野球選手が(年俸)1000万円だと『あれっ? 少ないな』ってなるじゃないですか。6000万円だったら『あ、中間くらいにきたな』、1億円なら『あぁ1億いったんだね』と。本当にオリンピアンと野球選手が同じ額で、こんなにも感覚の差が表れるって、そもそも違うんじゃないかなと思います」

 確かに野球選手やサッカー選手の年俸は何千万~億単位に設定されて普通という感覚が浸透しているが、五輪に出場するアスリートたちはスポーツで大金を稼ぐイメージが薄い。そのうえ練習にかかる経費や遠征費も考慮されにくいのではないだろうか。

 ちなみに清水氏は高木菜那選手の報奨金がボードに表示されると「えー!」と驚きの声を上げ、過去二度の五輪で手にした報奨金は、長野五輪500メートルの金メダルで300万円、同1000メートル銅メダルで100万円、ソルトレークシティー五輪500メートル銀メダルで200万円だったと明かした。

 番組ではこれに関連して、225日に行われた東京マラソンで、日本記録を樹立した設楽悠太選手(26)に、日本実業団陸上競技連合から報奨金1億円、5位の井上大仁選手(25)に1000万円が支払われたことも取り上げた。国分がこの金額に清水氏は「選手はそこをターゲットにして記録を狙いにいく。実際、モチベーションになりますけど、この一過性の(報奨金の)出し方が果たして正しいのかどうかというと、難しいところがあります」とコメント。「額を調整して継続的に出していく、もしくは事業計画がしっかりしているなら金融機関は無利息・無担保で借りられるような人生設計を含めて国ないし連盟がサポートするような今までにない支援が望ましいのではないか」と、問題提起した。

 海外ではどうかというと、韓国では選手だけでなく監督やコーチにも報奨金が支払われているという。また前出の東京マラソンでも、設楽選手の所属するホンダに5000万円、井上選手の所属するMHPS1000万円が支払われるという。一方でノルウェーは、報奨金なし、翌年に運動能力を高めるための資金約159万円が選手たちに贈られるが、これは国内にアスリートをバックアップするための施設や環境、制度が十分整っているためではないかと見られるという。

 それと比較して『ビビット』では、27日の報告会で各選手が「各地でスケートをやりたいと思う人が少しでもできる施設がほしい」(羽生選手)、「ローラースケートを使った練習ができる場所が足りない」(高木菜選手)、「“4年に1度のスポーツ”と言われる。常に注目してもらえるようにしたい」(カーリング吉田夕梨花選手)と発言したことにも注目。ウインタースポーツに挑戦できるエリアが限られている現状を伝えたほか、選手たちの引退後のセカンドキャリアについても話を広げた。

 全体を通して、清水氏はたびたび「維持」という言葉を使っていた。一時的に盛り上がっても、すぐに忘れて廃れてしまってはかえって大変なことになる。環境を整備して、さらに維持していくことが大事。それらは当たり前のことだが、「たとえばスケートリンクを年間使用可能にするためには莫大な電気代がかかっている」など具体的に話してくれることで、日本のウインタースポーツを取り巻く現状に、多くの改善点があることに気づかされる。一般の視聴者がスポーツおよびアスリートについて考える機会となる、良い特集だったと思う。

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