
電車内の安全と快適を守ることが、痴漢対策になる。Photo by Lordcolus from Flickr
前篇では、交通のコンサルティング会社「株式会社ライトレール」の阿部等さん(代表取締役社長)と佐々史人さんに、満員電車や女性専用車両が100年続いていることや、阿部さんの考える満員電車を解消するための「5方策」についてうかがいました。本数を増やし「輸送力」を増強する、そのコストは利用者が納得する範囲の負担増で回収できると考えているそうです。後篇は、コスト回収の詳細や防犯カメラについてご紹介します。
▼前篇
痴漢問題を解決するために「満員電車解消は有効」という仮説のもと、深刻な混雑状況の解消策を専門家に聞いた
卜沢:満員電車解消の資金を賄うために運賃を値上げするには、反対が強いのではないですか?
阿部:その通りです。満員電車が100年続いてきた歴史は、運賃抑制の歴史なんです。輸送力を増強する方策はあるのに、運賃抑制の結果としてそれを実行する資金を確保できず、満員電車が100年間も続いてきました。そこで、すべてを一律に値上げするのでなく、着席する人だけに割増料金を払ってもらうことを提案しています。
近年、各社でそういった取り組みが増えてきましたが、着席専用の列車は輸送力増強・混雑緩和と逆行します。満員電車では1両に300人も乗っていますが、着席専用では50人くらいに減り、輸送効率が大幅に下がってしまいます。現に、近年に新設あるいは増強された東武・京急・西武・東急・メトロ・京王の着席専用列車は、一番の本丸である朝ラッシュ上りには1本も設定されていません。
分単位で、座席を売る
卜沢:輸送力を落とすことなく着席の割増料金を払ってもらうには、どうすればいいのでしょうか?
阿部:いまと同様に、ひとつの車両内に着席と立席を混在させたまま、着席する人だけに割増料金を払ってもらえばよいのです。跳ね上げ式座席とICカード読取り機を組合せ、Suicaなどの交通ICカードをかざすと座席が降りてきて、降りる駅で立ち上がるとバネで戻るようにします。いつ、誰が、どの列車のどの座席に、どこからどこまで座ったとのデータがICカードのセンターサーバーに集約され、次に自動改札を通るときにその分の割増料金が引かれる仕組みです。
卜沢:疲れたときなど、確実に座るためにグリーン車に乗ることはありますよね。座席を確保しようと、始発駅で何本も余計に待つ人もいます。座りたい人は少し余計に払い、安く移動したい人は立っていく、利用者が選べるようにするということですね?
阿部:はい。余計に払うと言っても、朝のラッシュ時で1分10円、夕方のラッシュ時で1分5円くらいを想定しています。40分で400円または200円、60分でも600円または300円と、いまのグリーン車やライナー列車より割安です。
自治体が満員電車解消に取り組む意義
阿部:着席というのは明らかに商品価値が高いのです。商品価値の高いものは高い値段、低いものは低い値段というのは、文明社会の常識です。
卜沢:すべての座席でというのはむずかしいかもしれないですが、一部座席に導入するだけでも需要はありそうですね。しかしいままで座れる機会があった、経済的な弱者が座れなくなるのでは?
阿部:お年寄りにしろ、妊婦にせよ、障害のある方にせよ、自治体が補助金で賄えば問題解決できます。鉄道会社としては、無料で商品を提供することはできませんが、負担するのが本人であることは必須ではありません。良心に頼っているシルバーシートという20世紀のやり方から脱却して、21世紀はシステマティックな方式にしましょうということで、いまよりもむしろ公平になります。
卜沢:たしかに優先席よりは合理的ですね。