卜沢:私も小池知事が動いてくれることを期待しています。知事みずからがフラッグシップとして動いてくれれば、痴漢問題の解決の後押しにもなるんじゃないかと。
阿部:小池知事が満員電車ゼロに真剣に取り組めば、都民からの評価は絶対に上がりますよね。
卜沢:話は変わりますが、ここ数年間でホームドアがついた駅はすごく多いですよね。自殺防止や転落防止に役立つほか、痴漢を疑われた人がむやみに線路に逃げないようにするという効果もあるようです。自殺者や転落が出ると損害が出ていた鉄道各社にとって、これを設置することがプラスになるから普及が進んだのでしょうか?
阿部:それよりも社会からの声が大きかったからです。鉄道会社からすれば人身事故の影響やその対処にかかるコストを削減できますが、設置にかかるコストが莫大すぎて、費用対効果でいったら割が合いません。エスカレーター、エレベーターの導入でも同じことがいえます。バリアフリー化で利用者は多少増えても、投資額を回収できるものではないのでビジネスとして成り立つ話ではありません。それとひきかえ、満員電車は大きなビジネスチャンスです。
社会の声が鉄道会社を変える
卜沢:かなりの勢いで進んだので、鉄道会社にメリットが大きいのかと思っていました。
阿部:いまお話しした通り社会からのプレッシャーがあり、国が強く指導し、鉄道会社はそれに対応したと示す必要があります。一部自治体が補助金を出しているのも後押しになっています。
卜沢:やはり鉄道会社が動くには、社会からの声や国の姿勢が大事なんですね。痴漢対策のための防犯カメラは、社会からの大きな声を受けて最近になって設置が進み始めたと思うんですが、それでも痴漢問題については対策があまりとられていないように見えます。ホームドアは進んでいるのに、痴漢対策が遅れているのはなぜでしょうか?
阿部:鉄道会社が「自分たちが原因を作っている」とは認識していないからでしょう。「満員電車は、東京に人が集まっているから仕方ない」という認識で、たとえ満員電車が原因で痴漢が起きるとしても「鉄道会社の責任でない」と思っています。
卜沢:痴漢の実態調査などにもあまり積極的でないのはそういう理由なのでしょうね。ホームドアは実現可能だとみんなが思っているから、「やってほしい」と鉄道会社に要望した。しかし満員電車に不満はあっても、多くの人が「解消はできない」と思い込んでいる。痴漢に関しては「犯罪を犯す側の問題だ」と思っている。鉄道会社はどちらについても強く改善を求められることが少ない、だから動かないということなんですね。
阿部:先ほどお話に出た防犯カメラですが、私は以前からテロ対策として、大々的な設置とシステム化を提案しています。テロ対策は、手荷物検査より不審者検知・追跡システムのほうが有効です。
「防犯カメラ」ができること
阿部:現在個別に設置されているだけの防犯カメラをネットワーク化し、A地点のカメラで不審な人を見つけたら、そのカメラの範囲外に移動しても次はB地点のカメラで追い、そこからも移動したらC地点のカメラで追う…..というふうに伝達ゲーム形式で追跡していく。同じところを行ったり来たりする、荷物を置いたまま移動する、服装がおかしいなどの不審行動も、画像解析で精度高く見つけられます。
卜沢:痴漢対策だけでは予算を割くのは難しいけれど、オリンピックのテロ対策も兼ねられれば予算を捻出しやすいということですね?
阿部:はい。システム+人間の目で見て、確認します。列車の中では車掌、駅なら駅員が「あの人おかしいな」という人物を見かけたらシステム上でマークし、電車内や駅構内、場合によってはホームから離れた線路上にまで設置したカメラで追跡します。
前篇で空いてる車両でも痴漢というか暴漢に遭うというお話がありましたが、そういうシステムを入れておけば普通の人はやりません。やったとしてもすぐに犯人を特定でき、駅員が次の駅で警察の人と一緒に待ち構えて現行犯で逮捕することもできます。抑止になり、証拠にもなります。