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AV出演強要問題から考える、労働問題としてのAV

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Thinkstock/Photo by Image Source Pink

 近年、AVに関する様々な問題、特に出演強要問題が注目されている。

 今月1日、警視庁がアダルトビデオ(AV)出演強要問題に関連して、メーカーやプロダクションなどAV業界関係者を対象にした「事件説明会」を開いた。メディアへ公開されたのは前半約15分のみで、警視庁から業界側に「アダルトビデオ出演強要問題に係る関係法令の遵守についての要請書」が手渡されるなどしたようだ。あとの約20分間についての詳細は不明だが、報道によると、パワーポイント4枚の資料を示しながら、過去の逮捕事案を詳しく説明するなどしたとのことだ。

 AV出演強要問題は、2016年3月に人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」が法整備を求める報告書を公表したことで社会問題化した。これを受け2017年4月には、業界の健全化のため、弁護士や大学教授で構成された第三者機関「AV業界改革推進有識者委員会」(現・AV人権倫理機構)が発足。委員会が始めに提唱したのが「適正AV」という概念だ。この適正AVの運用は2018年1月から順次始まり、4月から本格運用される。

 適正AVとは何なのか。委員会が昨年4月に作成した「適正AV業界の倫理及び手続に関する基本規則」より抜粋する。

 「成人向け映像(アダルトビデオ)の総称としては「AV」が一般には認知されているが、ここで敷衍する適正AVとは、IPPAに加盟しているメーカーが制作し、正規の審査団体の厳格な審査を経て認証され製品化された映像のみをいう。無審査映像、海外から配信される無修正映像、著作権侵害の海賊盤および児童ポルノは、適正AVの範疇には入らない。国内の法規制に則り、確かな契約を取り交わして作られ、著作権の所在が明確であり、指定の審査団体において審査され、業界のルールに従い且つゾーニングされて販売またはレンタルされ、映像の出演、制作および販売・レンタルの責任の所在が明確なものだけを合法な適正AVと称する。なお、将来的には適正AV=AVとして社会認知されることを目指す」

 IPPA(正式名称:特定非営利活動法人知的財産振興協会)は、2011年に設立されたNPO法人でAVメーカーの集合体である。

 「適正AV」というのはいわば、ここからここまでは契約から制作、審査、販売まで、委員会が規定した確かなプロセスを経て作られたものですよ、ということを示した作品ということだ。

 ではその確かなプロセスをどのように保証するのだろうか。委員会が明示しているその方法の一部を紹介したい。

 委員会が提唱する<業界が守るべき規則> によれば、適正AVにおいては、「作品制作にかかわる過程、特に意思決定時において、可能な限り映像で保存をし、問題が発生した場合には、その映像を判断材料に供せるようにする」とのこと。また、「映像は一定期間保存し、団体等が適正AVの出演者の自己決定権が尊重されているかを検証するために、プロダクションと実演家の契約時、制作前のメーカーの面接時、契約書(別名の実質的契約書を含む、以下同じ。)締結時、制作に関する打ち合わせ時、制作時、撮影終了時などの可視化は必要であり、それを義務化する」ともある。

 つまり、契約書締結時など出演者の意思決定場面をできる限り映像として残すということだ。

 ブラックバイトやブラック企業のように、契約にない、あるいは法律を遵守しない労働を強いることはAV業界に限らず存在している。「契約書締結時など出演者の意思決定場面をできる限り映像として残す」という方法は、性を扱うAVは他の「労働」とは別のもの(そこには蔑視も含まれる)と考えているように見えなくもない。

 だがAVは女優男優含め、究極のプライバシーでもある「自分の身体」を他者に晒し、記録を残す仕事だ。必然的に、他の業種に比べてリスクも高くなる。そうした性質のある仕事だからこそ、出演者や関係者を守るための契約書は非常に重要なものであり、特別な慎重さや丁寧さが必要となってくるのではないだろうか。

 ただし、契約時などに撮影されていること自体が一種の圧力になってしまわないのかという点や、「強要なのではないか」という問題が持ち上がったときに、被害者かもしれない人にとってその映像が不利に働いてしまう可能性がある点には留意しておきたい。スカウトされてから契約書を書くまでの間、そして現場での出演者と監督の細かなやりとりなど、その全てを映像に残しておくことはほぼ不可能だろう。残された映像以外の場でどのようなやりとりがなされているのかは分からない。契約時に撮影しているから問題は生じない、というわけでもないのだ。

 他にも規約の中には、「事前に打ち合わせていない、または台本にない行為は禁止するとともに、性表現上の行き過ぎた行為については、当事者間の合意があっても慎重にすることとする」「それぞれの当事者、特に出演者が十分に理解するための機会と時間を与えられた上で、不当な圧力や圧迫を受けることなく自由意思をもって締結してはじめて撮影が可能であることを理解する」という条文もある。また、今までプロダクションごとにばらばらで内容も曖昧な部分のあった契約書についても、今後適正AVでは委員会が作成した統一契約書を使用することになる。

 しかし、適正AVだけでは強要問題の全てを解決することはできないだろう。なぜなら、適正AVに属さないメーカーやプロダクションについては対処ができないからだ。この点については、早急な法整備と警察の本腰をいれた捜査と対策が必要だ。

 強要問題を含め、AVについてはまだまだ考えていかなければいけない問題が様々ある。業界に対しての蔑視・スティグマについて、性の表現について、そして強要問題などはそれぞれが複雑に絡み合っており、簡単に答えのでるものではない。しかし、AVへの出演ややりたくない行為を強要された被害者は確かに存在する。問題の全体像をしっかり捉えながら、いまいる被害者をいかに救済し、また新しい被害者をうまないようにしていかなければならない。

 冒頭で紹介した警察庁による「事件説明会」はメディアへの公開が限定的なものだった。AVにかかわる問題は、なにより業界内部の様子が一般に見えにくいことが、より解決を困難にしているように思う。AVという仕事へのスティグマを解消していくととともに、業界内に限らない広く開かれた議論こそがいま必要なのではないだろうか。
(もにか)

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