
生き延びるためのマネー/川部紀子
こんにちは! ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。
近頃あちらこちらで「働き方改革」という言葉を耳にする機会があります。
先月22日、国会の施政方針演説で安倍首相もあらためて「働き方改革を断行いたします! 戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革です!」と宣言しました。特に会社員、パート、アルバイト、派遣社員など、お給料をもらっている人はいま行われようとしている改革がどんな内容なのか、そろそろ知っておきましょう。
「働き方改革」という漠然としたネーミングですが、大きなポイントは下記の3つです。
①「同一労働同一賃金」
②「働き方に左右されない税制」
③「長時間労働の打破」
1つずつ解説していきますので、一緒に考えてみましょう。
①「同一労働同一賃金」平等か余計なお世話か悩ましい改革
これは、主に正社員でない人向けの改革です。
正社員でなくても、実際には正社員と同じ仕事しているケースは多くあります。それにも関わらず、立場が違うだけで、こんなにも正社員よりも賃金が低いというのはいかがなものか。会社側は、同じ仕事内容の人たちには平等に同じ金額を払うようにしましょう、という趣旨です。安倍首相は「非正規という言葉をこの国から一掃する。」とも発言しています。
「平等」という言葉から良い改革のようにも感じますが、問題も山積みです。
まず正社員と非正規雇用では、そもそも採用基準が違うケースが大半だという問題。
正社員は、莫大なお金、時間、エネルギーを費やし一流大学に入って、就職活動を勝ち抜いてやっとの思いで数少ない正社員の枠を手に入れた可能性があります。そこを、仕事内容だけで判断されてしまうのは、逆に不平等ではないか、という正社員の立場に立った意見があります。
そんな正社員は、同一労働同一賃金によって、非正規雇用の人へお金が流れることで自分の昇給、賞与、退職金への影響、リストラの増加などを不安になる可能性も考えられますよね。
また、非正規雇用の人が自らあえて非正規雇用を選んでいる場合だってあるのでは? という問題もあります。
例えば、何か別の目標や夢があり、そちらで一人前になるまでの最低限食べていけるお金がほしいというケース。その場合、「つなぎ」なので、定年退職まで働くつもりで入社した正社員と同じ賃金をもらうなんて、同じ責任を負わされるようなものですから、少し戸惑ってしまう可能性があります。
もちろん正社員と同じだけ働いていて、正社員になりたいとも思っているのに、長年非正規雇用のまま正社員になれないという方もいます非正規雇用は正社員と異なり、
最悪の事態として考えられるのは、法律が変わる前に、非正規雇用の人の員整理をする会社が出てくるのでは? ということです。「非正規雇用の人達の給料を上げなきゃいけないから、その前に切ってしまおう」となってしまったら、もはや平等でも何でもないですね。
②「働き方に左右されない税制」フリーランス、個人事業主にとっては嬉しい改革
税金面では、会社員(特に高所得会社員)が優遇されている風潮があるので、そこを改め、フリーランス、個人事業主という働き方も選びやすいようにしようというものです。
具体的には、会社員など雇われている人限定の経費ともいえる「給与所得控除」が減らされます。経費ともいえる「給与所得控除」が減るということは、税金が上がってしまうことになるので、その代わり、会社員もフリーランス、個人事業主も全員が受けられる「基礎控除」という経費のようなサービスをアップすることになっています。つまり一般的な会社員は、結局トントンの人が大半で、フリーランス、個人事業主は税金が安くなる人が増えるということです。
一方、この改革によって増税となる人達もいます。それは、年収850万円超の高収入会社員です。ただし、22歳以下の子や特別障害者、要介護3以上の家族を扶養している場合は増税の対象外というケアはあります。
この2つ目の改革はほぼ決定事項です。トントンの人と条件が良くなる人がほとんどで、一部の高所得会社員が増税というものですから、1つ目よりすんなり決まるのも納得ではないでしょうか。
③「長時間労働の打破」新しいハラスメントが生まれる可能性
こちらは読んで字のごとくの改革です。最近は過労死の問題が増えており、その原因の1つとして長時間労働が挙げられています。そこで、残業規制をしっかりやって、守らなかった会社には厳しい罰則も与えることを労働基準法で定めようとしています。
字面だけ読むと全く問題がないように感じるのですが、そうでもありません。
まず、現在の法律でも守っていない会社が山ほどあるのに、さらに残業規制をしても結局は守られないのではないのか。ということが考えられます。
労働基準監督署の本格的な調査が増え厳しい罰則を受けるか、過労自殺などが発生し報道されるなど、その会社に何か大きな問題が起こるまで、過酷な労働環境をそのまま放置する企業もありそうです。
特に、違法残業が当たり前になっているような業種や中小企業まで、法律を改正しただけで、ルールが行き渡るかは疑問です。
また、労働時間を短くしようという流れの中、新しい問題が既に多発しています。「時短ハラスメント」略してジタハラです。
これは、会社から働く時間を短くするように言われるものの、業務量が以前のままだという問題です。仕事が終わらなくても、帰らなければならないので、当然業務に支障が出るというわけです。勤務時間をすぎると会社の電気を消されるなど、無理やり帰宅を促す方法は当たり前になってきました。仕事を終わらせるために、結局家で仕事を片付けるなら、長時間労働の打破とは言えませんよね。これで、過労死などが起これば、労災適用の面でも大いに揉めそうです。
まとめ
間違いなく言えることは、「働き方改革」で状況が変わっても対応して生きていかなくてはいけないということです。
本文を読んでいただいた方には、全ての人にとっての良い改革はあり得ない、と伝わったことでしょう。改革の中で、自分にとって良い部分、悪い部分を正しく見極めたうえで受け入れるしかありません。そのために今後、具体的になっていく「働き方改革」の動きを見守っていきましょう。
一日の中で働いている時間が一番長い人は、働き方が自分の人生や幸せを左右するといっても過言ではないでしょう。
お給料をもらっているとはいえ、冷静に考えると、多くの人は会社のために働いているわけではなく、自分や家族の幸せのために働いていますよね。働き方改革に振り回されることなく、「自分の幸せな働き方」を見つけてほしいと思います。