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生瀬勝久が大人の魅力で繋げる、古代ギリシャと現代日本の「正義」

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2/26まで上演中。公式HP

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像作品では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 平昌(ピョンチャン)冬季五輪が開幕しました。過去に例をみない政治色の強い五輪と言われ、虚実とりまぜたニュースとも言えないような情報が飛び交っています。何が正しくて何が間違っているのか、情報に溢れる時代だからこそ、誰かの意見を盲目的に信じ込み従うのではなく、自分で判断することの大切さがより求められている昨今。それは決して、現代に限った課題ではなく、人類にとって普遍的なテーマであります。

 現在上演中の舞台「アンチゴーヌ」は、生きるうえで自身にとっての正義とは何であるかを、相反する2人の立場から描いた物語です。衝動のままに生きて死に急ぐヒロインと、体制の維持を第一にしながらも肉親の情に揺れる王の対話から、生きることの不条理さとともに、目の前にいる他者との対話の重要性を訴えています。

「アンチゴーヌ」はソポクレス作のギリシャ悲劇「アンティゴネ」を、フランスの劇作家ジャン・アヌイが翻案した作品で、1944年に同国で初演。今回の上演の演出は栗山民也、ヒロインのアンチゴーヌを蒼井優が演じています。

 古代ギリシャ・テーバイの王オイディプスには長男、次男、長女、そして次女のアンチゴーヌという4人の子がいましたが、その死後、長男と次男は王位をめぐって争い刺し違え、ともに亡くなります。王座に就いたアンチゴーヌの叔父クレオンはテーバイの秩序を守るため、長男は手厚く弔い、次男は国家への反逆者であると決めて遺体の埋葬を禁じ、背くものは死刑だと命じました。

奔放な姫と、苦悩する王

 しかしアンチゴーヌは次兄の遺体に弔いの土をかけ、捕らえられます。クレオンは、ひとり息子エモンの婚約者でもある彼女の命を助けるため、その行為を止めさせようとしますが、アンチゴーヌから自分を死刑にするよう迫られます。

 原作「アンティゴネ」では、アンチゴーヌが兄を弔うのは、それが神の法であるからという理由でしたが、舞台「アンチゴーヌ」では設定がよりリアルに変更され、神や予言者は出てきません。アンチゴーヌが兄の遺体に土をかける理由は、「自分がそうしたいから」。

 またクレオンも、「アンティゴネ」では長女もともに処刑しようとする冷酷な王ではなく、姪を死なせたくないという個人的な思いで彼女を説得する人物として描かれています。

 法律や世間の規範ではなく、自分の感情や欲求に素直なアンチゴーヌは純粋な精神の持ち主で、美しく着飾るよりも野原を裸足で走り回る少女です。山ガールのイメージが浸透している蒼井優はビジュアル的にも似合う印象ですが、なによりしっくりきたのは、アンチゴーヌの面倒くささへのハマり方です。

 アンチゴーヌは王の命令に逆らうだけでなく、案じてくれる姉を冷たくあしらい、婚約者のエモンへは自身の死が間近だと告げもせずに抱いてほしいと願います。透明感と評される蒼井の雰囲気の硬質さが、疑問だと感じれば相手が誰であっても強く「ノー」と主張するアンチゴーヌの頑固さを、全身で表していたように感じられました。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

twitter:@westzawa1121

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