
不思議なチカラで治した、と信じたい人たちへ。Photo by Marco Verch from Flickr
オリジナリティ溢れる健康法を広める人たちのプロフィールには、やたらと「自称・自然治癒」が登場する気がしてなりません。最近では〈婦人科専門の霊能者〉を自称している(なんだそりゃ)子宮委員長はる氏。人生どん底の時に「子宮の声を無視していた!」と気づき、子宮を温め子宮の声を聞く生活をしていたら〈子宮筋腫が自然消滅〉したと語っています。
経血コントロールを布教する〈日本おまたぢから協会〉の代表・立花杏衣加(たちばな あいか)氏は、〈20代後半で子宮頸がん前がん病変が見つかり子宮の切除の診断を受けるが、手術を拒否。なんとか治癒できないかと模索し、身体を温め、運動(ベリーダンス)で冷えを克服した結果、子宮頸がんは自然治癒・筋腫なども消失〉とプロフィールに記載しています。
この他も、巷のブログ等を検索すると、まるで「奇跡」と言わんばかりのドラマチックな自然治癒ストーリーが出てくる出てくる。
【感動の「自然治癒」ストーリー例】
・夫の精子(!)で自作したレメディを飲んだら、子宮頸がんが消滅
・漢方や食事療法、鍼などで、卵巣嚢腫が自然治癒した
・膣壁を触っていたら、指先の感触で〈直腸瘤〉を発見→助産師に伝授された膣ケアを熱心に続けていたら、頑固な便秘とともになくなった。要手術レベルだったのに、危機脱出!※原田純著『ちつのトリセツ』(径書房)掲載のエピソード
・しっかり半身浴をして、食事はできる限り摂らずにいるとそのうち血を吐いてがんが消えるという、冷えとり体験者の話がある! 子宮がんも同じで、がん細胞のかすがレバー状のオリモノとなって出てくるとがんが消える。※某自然派ショップのサイトに掲載
体と真剣に向き合えば、病気は消せる! と言わんばかりのエピソードがざっくざく。しかし、物理的な〈疾患〉を自力でコントロールした! と言い切れるものなのでしょうか? そしてそもそも、本当にそんなことができるのか? どんな話を見聞きしても、頭に浮かぶのは疑問ばかり。
そこで、そんな長年のモヤモヤを解消すべく、産婦人科医のタビトラ先生(@tabitora1013)に解説していただくことに! 取材場所の喫茶店で、思わず「ええええー」と大笑いしてしまったそのお話は、2ページにて。
「筋腫が消えた」の本当のところ
まず、「子宮筋腫が消えた」というお話はいかがでしょう。巷では「自然に沿った生活をしたら、自然治癒力が高まり、筋腫が小さくなった(もしくは消えた)」という主張がありますが。
タビトラ先生(以下、タビトラ):小さい筋腫であれば、エコーで確認できる限界がありますから、1~2cmものだったら見逃しているという可能性もあると思いますね。
たまたま小さな筋腫が見つかったが、次に受けたエコーでは映らなかった。それを「特に見当たらないと言われたから、消えたんだ!」と解釈している場合もあるという感じでしょうか。
タビトラ:そうですね。そもそも、筋腫というのは基本的に発生原因が不明です。ですからまず、「体を温めたり食事を変えたりする」ことと「筋腫が消える」ことは、まったく関係がありません。また、閉経すれば筋腫が育つことはありませんから、そのうち消えるということもあるでしょう。
子宮筋腫が消えたのは、冷えとりや食事療法といったセルフケアの効果でなく、〈閉経だった〉なんてオチも考えられるという! 自然治癒をウリにする人の年齢も要チェックですね。
「がん」と「異形成」の違いに注意
お次は、命に係わる重大な病気として、文字を目にするだけでもドキッとさせられる「がん」について。薄着や冷たいものばかり食べる生活をしていたら内臓冷え冷えで(あくまで主観)子宮頸がんと診察された! でも布ナプキンやおまたカイロで温めていたら、がんが消えていた! そんなエピソードを耳にすると、冷え怖い~温活凄い~とすり込まれそうですが、そもそも子宮頸がんにおける「自然治癒」は、大変よくあることだと言います。
タビトラ:子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交経験のある人のほとんどが一度は感染すると言われています。そこからがんに進むまでは段階を経ていくわけですが、軽度から中度異形成という状態までいく人も少なくありません。しかしその段階で、多くの人が自然消滅するんです。特別な治療や手術をしなくても、経過観察しているうちに消えるというのは、非常によくあることだと言えます。
つまり、〈異形成という、がんの前段階から自然治癒した〉という自称であれば、たくさんの人が可能ということ!「犯罪者の90%がパンを食べている」なんてブラックジョークと同じように、統計さえ取ることができれば「子宮頸がんが自然治癒(※あくまで前段階)した人の半数は、布ナプキンを使っている」な~んてことも謳えてしまいそう。