「町山さんの父親観をもっと知りたい」(枡野)
枡野 町山さんはあまりご自身のことは書かれないんですか? 前に僕、(町山さんの)日経新聞のコラムがすごく面白かったんですけど。若い頃の思い出話みたいなの。
町山 ほぉ~、全然覚えてないや(笑)。
博士 雑誌『hon-nin』の自伝も途中でやめちゃったしね。
古泉 あれ、絶対、本にしてほしい。連載、楽しみに読んでましたよ。
博士 だから、あれの続編というか、継続したものを、(博士主宰のメルマガ)『メルマ旬報』でやってほしいってずーっとオファーしてるんだよ!
枡野 それ、やってほしいですよ!
博士 ただそれが、忙しくてできないって。
古泉 (『hon-nin』スーパーバイザーだった)松尾スズキさん(演出家/俳優/映画監督)にムカついてやめちゃったたんですよね?
町山 あの雑誌は……他にもいろいろとムカついてたんだよ……。
古泉 あっ、そうなんですか!?
町山 たとえば「せきしろ」っていう書き手が(『hon-nin』執筆陣に)いて……。
古泉 放送作家の人ですね。
町山 それで、(『hon-nin』という雑誌は「自分のことを本人が書く」というルールだから)けっこうみんな頑張って自分のことを赤裸々に書いていて、松尾さんも書けないなりに必死に書いてるのに、せきしろだけ自分と関係ない、ぬるい原稿書きやがって!(笑)
古泉 それが許せなかったんですか。
博士 みんなさ、自分の離婚のこととかを泣きながら書いてるわけさ。
古泉 みなさん血まみれで書いてた、面白い本でしたよお! 読むのがキツかったくらい。
博士 そう! 血まみれになって晒して書いてたね。
町山 なのにせきしろだけ、まったく自分が傷つかない原稿書いてやがって!
古泉 でもだからって、自分が辞めることないじゃないですか!(笑)
枡野 そうですよ、町山さん!
町山 いや、雑誌自体がなくなっちゃったんだよ。
枡野 まぁ、そうでしたね。
町山 おれは雑誌自体の方向性がガーッて変わっちゃったときに辞めたんだよ。
古泉 (『hon-nin』の町山さん連載を読むと)町山さんのお父さんは物凄いチンピラだったんですよねえ?
町山 そうそうそう。
古泉 最高でしたよお!
枡野 町山さんご自身のお父さんに対する意識が特殊なのかなとも思ったんですね。そうでもないですか?
町山 はい。
枡野 ちょっと自分のことに引きつけて言うと、町山さんが『結婚失格』[注]の解説で書いてくださったことが僕にはすごく響いたんですが、町山さんの父親観みたいなものをもっと知りたいと思ったんですよね。
古泉 町山さんはお父さんによく映画館に連れていってもらったことで映画好きになっているわけですし、とても愉快なお父さんですよ。他人事だからそんなふうに思っちゃうんですけど(笑)。
博士 や、だから、お父さんが亡くなられたときに色々調べて、俺がパーソナリティだったNHKラジオ『すっぴん』にゲストで出てくれたの。で、そのときに受け手の俺が反応できなくなっちゃって。涙ぐんじゃって。でも町山さんは平気でしゃべってたもんね。
町山 まぁ……とんでもない親父ですよ。
枡野 でも魅力的な人ではあったんですか?
古泉 そこのところ、物凄く気になる!
枡野 町山さんの理屈だと、正しいか正しくないかよりも、魅力的かどうかが大事じゃないですか。
町山 あ~そういう意味ね。面白いといえば面白い人だった。
博士 これはもう切ってもらっていいんだけど、(元・大阪府知事)橋本徹が問題ある人物であるということをマスコミがすごく騒いだときに、当然、町山さんが橋本徹を撃つべきだと思ったんだけど、町山さん自身は「橋下徹のお父さんと俺のお父さんの状況は一緒だから、叩かない。俺は……叩かない」って言ったの。俺にはね。
古泉 橋下さんってそんなに問題多いんですか?
博士 多いですよ。
町山 橋下さんのお父さんはヤクザだったでしょ。
古泉 いいじゃないですかねえ、別に親がヤクザでも……
町山 いや、でも、橋下さんを叩いた連中は、お父さんがヤクザだって叩いたんですよ。
古泉 ああ~……。
町山 だから俺はそういうのには加担しないって言った。
枡野 そんな、『本と雑談ラジオ』では流せない……。
町山 今のところは全然問題ないですよ。問題ない。
枡野 そうですか。町山さんはぜひそういうことを、博士さんのメルマガ連載で書いてほしい……。
博士 あのさぁ、そんなのさ、人間の出自なんてさ、みんな変えられないじゃん! そんなことを論点にして相手を突くようなことをしたらダメなんですよ! 出自なんて自分で選べるわけないじゃん! そんなことで相手を追い込むなんてダメ! それは俺はもう常に言ってるよ!
枡野 それは前に町山さんが『TVブロス』でね、ユダヤのことを書いたライターさんを批判したのも、つまり、自分で選べないことをいうのは差別なんだと。
町山 そう。
古泉 そのライター、持永さん(持永昌也)ですね。持永さん可哀想ですよ。持永さんで検索すると町山さんに叱られたことが一番最初に出てくるんですよ。
枡野 でもあれが印象的な出来事でした。あの町山さんの批判によって、持永さんが『TVブロス』を離れたっていうのがあったから……。
博士 そういう、なんだろうね、ポリティカル・コレクトネスかわからないけど、そこだけはちゃんとしない限り、トランプ大統領を……生んじゃうよ!
古泉 ああ~!
博士 日本とアメリカは状況が違うんだろうけど……。でも、そのへんのルールの曖昧さ、ネトウヨとかの許せなさって、すごいよね。
古泉 80年代はね、みんな気軽にナチスのコスプレしてたんですよお。
博士 それ、そうだよ。だってYMOなんか完全にナチスだもん。
町山 戸川純ちゃんもなんかそんなカッコしてたよね? 戸川純ちゃん、確かナチス帽、かぶってたよね?
博士 そういう例はもう、数限りないですよ。
町山 (欅坂46の衣装がナチス制服に似ていると糾弾された)秋元康も、ちゃんと文脈を言えばよかったと思うんだよ。文脈を言わずにすぐ謝っちゃったでしょう? そういえば、秋元康さんもすっげー昔にインタビューしたことある(笑)。
古泉 へぇ~! 批判的にインタビューされたんですか?
町山 いや、まだ、『おニャン子クラブ』のころだから。そのときに秋元さんが言われたのは、「私はタモリさんのハガキ選びやってました」みたいな話。
古泉 秋元さんもタモリさんのところからなのかあ。
博士 っていうかね、町山さんが秋元康に激怒するのは、秋元康が「おニャン子」と結婚したからなんだよ。
古泉 高井麻己子と!
枡野 そうなんですか!?
町山 ファンでした……
古泉 高井麻己子、一番いい頃でしたけどねえ。
町山 でも、あれは、秋元康が喰われたんです。
古泉 そうですかあ。でも結婚したから偉いじゃないですか。離婚もしてないし、立派なもんじゃないですか。
町山 まぁ、ジョークで「高井麻己子のファンだった」ってネタにしてるんだけど。ただ、実際は、秋元さんが喰われてるんだよ。
博士 おれはねえ、感覚的に、誰かが若い子と結婚したときに、それが普通のファンでもよ、なんであんなに怒るのかがさっぱりわかんないんだよねえ。感覚的にないのよ、そういう感覚が。うらやましいからって怒るぅ!?
古泉 ガハハ! うらやましいーッ!! 畜生――ッ!!
枡野 古泉さんはわかるんですか?
古泉 うん、ちょっとわかりますよ。
博士 おれ、まったくわかんない、あれ。
町山 それは博士がおかしいと思うんだけど……。それで、その秋元康さんがやってた仕事を引き継いだのがいとうせいこうさんなの。
古泉・枡野 ああ~~!
町山 だからあのあたりの人たち、知られてないだけで、みんな若いころに接触してるんですよ。
【第3回の注釈】
■『時計仕掛けのオレンジ』
スタンリー・キューブリック監督作品。1971年アメリカ・イギリスなどで公開。日本公開は1974年。ただしイギリスでは少年による複数の殺人事件への影響が取沙汰され、キューブリック監督への脅迫行為が頻発したため、監督本人の意向により1973年に全面的に上映が禁止された。イギリスでの上映復活は1999年。映画としては近未来を舞台に不良少年の主張と挫折と厚生と復活を凄まじいバイオレンスとブラックユーモア、見たこともないヴィジュアル及び音響音楽センスで描き切り、その後の全世界の映像・音楽・ファッション・マンガ…ほぼあらゆるサブカルチャーに強烈かつ決定的な影響を与えた。昨年公開のEXILE映画『HiGH&LOW THE MOVIE』でも不良少年グループのモチーフに引用されている。
■『結婚失格』
枡野浩一・著。講談社文庫・刊。「書評小説」という形式をとりながら、主人公の離婚後の焦燥を赤裸々に描いている。本文の中で離婚する主人公の職業は歌人ではなくAV監督であるが、著者である枡野浩一自身の離婚経験を色濃く反映されている。文庫版の解説を映画評論家・町山智浩がおこない、そのかなり手厳しい「枡野批判」がかなりの話題を呼び、また論争も巻き起こした。
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◆町山智浩
映画評論家/コラムニスト/在米ジャーリスト。1962年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、JICC出版局(現・宝島社)に入社。1996年に米国移住。現在はカリフォルニア州バークレーに在住。週刊文春『言霊USA』など連載多数。著作に『実況中継 トランプのアメリカ征服』『最も危険なアメリカ映画』『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』『トラウマ恋愛映画入門』などがある。Webストア≪町山智浩の映画その他ムダ話≫では映画解説などの音声ダウンロード販売をおこなっている。
・映画評論家町山智浩アメリカ日記
◆水道橋博士
漫才師/コラムニスト。1962年生まれ。1986年にビートたけしに弟子入り。1987年に玉袋筋太郎と漫才コンビ『浅草キッド』結成。2017年、京都芸術大学客員教授に就任。
芸人・タレント活動のみならず、週刊文春『週刊藝人春秋Diary』連載や日本最大級のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』編集長も務める。著書に『水道橋博士のムラッとビンビンテレビ』『はかせのはなし』『藝人春秋』などがある。
・水道橋博士のメルマ旬報
・『水道橋博士のムラッとビンビンテレビ』公式サイト
◆古泉智浩
漫画家。1969年生まれ。1993年『ヤングマガジン』ちばてつや賞大賞を受賞し漫画家デビュー。これまでに『青春☆金属バット』『ライフ・イズ・デッド』『死んだ目をした少年』の3つの漫画作品が映画化されている。夫婦での里親生活を綴ったエセッイ『うちの子になりなよ (ある漫画家の里親入門)』も発表。Webマンガ『特別養子縁組やってみた 漫画 うちの子になりなよ』へと発展している。他の漫画に『夕焼け集団リンチ 古泉智浩作品集』『ワイルドナイツ』『悪魔を憐れむ歌』などがある。
・無料Webマンガ『特別養子縁組やってみた 漫画 うちの子になりなよ』
・公式ブログ 古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』
(構成:藤井良樹)
【1】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~いくつもの枝編」
【2】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~雑誌と年表編」