スキルの男女間格差と、職場でのスキルの活用の男女間格差
次に男女間のスキル格差と職場でのスキルの活用格差について見ましょう。
図2は、男女間の職場での数学スキルの活用格差(調整前)と、先ほどの男女間の数学スキル格差を併せて示しています(「調整前」については後述します)。ここでもスペースの関係で数学スキルに絞って議論を進めて行きますが、このあと議論する傾向は他のスキルについても比較的当てはまる傾向が見られます。また、数学能力は言語能力に比べて賃金への影響力が強いので、男女間の賃金格差を論じる時に見るスキルとしては、他のスキルよりも当てはまりが良いスキル分野となります。
一般的に男女間の数学スキルの格差が大きい国ほど、職場での数学スキルの活用格差も大きくなります。数学のスキルを持ち合わせていなければ、職場で数学スキルを活用できるはずはないので、この傾向自体は自明なものですが、細かく見るといくつか興味深い点が浮かび上がります。
まず注目したいのは、ポーランド・スロバキア・スロベニアのような国では、他国同様に男女間で数学のスキルに差はあるにもかかわらず、それを活用しているのは女性の方が多いということです。ここからわかることは、職場でどんなスキルを活用するかは、能力以外の要因があるかもしれない、ということです。ここから「職場で理数系のスキルを活用するのは主に男性が望ましい」といったステレオタイプが影響している可能性が考えられます。
このことは、別の国を比較しても言えることです。例えば、フランスとチェコでは数学スキルの男女差は同程度ですが、職場での数学スキルの活用格差については倍程度の違いがあります。似たような関係は日本とベルギーについても当てはまります。実際の男女間の数学スキルの格差以上に職場での男女間の数学スキルの活用に格差が生じたり縮小したりするのは、雇用慣行や文化の違いによるものなのかもしれません。
日本の状況を見ると、先進国の中ではオランダに次いで職場における男女間の数学スキルの活用に差がある国だということが分かります。しかし、なぜ女性の数学スキルが活用されていないのかは、このデータだけではわかりません。職場に問題があるのかもしれないですし、雇用慣行や文化的な問題なのかもしれません。もしかしたら女性のスキルを活用できていないのではなく、女性が従事することの多いパートタイムという雇用形態では、数学のスキルを活用できるような業務に就けないという可能性もあります。その場合、問題は女性のスキルを活用できないことではなく、スキルを活用できない雇用形態に問題があるということになるでしょう。
そこで次に「調整後」のデータをみてみたいと思います。ここでいう「調整」とは、男女間の言語能力と計算能力、労働時間、職業による差を一定にするという作業です。噛み砕いて説明をすると、この調整を行うことによって、同じスキルレベルで同じ職業で同じ雇用形態で働いている男女で、スキルの活用度合いにどの程度差が生じているのかを見ることが出来ます。