
枡野浩一『愛のことはもう仕方ない』
【1】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~いくつもの枝編」
【2】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~雑誌と年表編」
【3】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~血まみれ編」
【4】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~ロック編」
【5】町山智浩×水道橋博士×古泉智浩×枡野浩一「サブカルの歴史を語る~権威編」
編集者時代の町山さんは、売り出し中のライターだった枡野さんの担当でした。その後、枡野さんは離婚と子どもに会えない悩みを町山さんに相談しています。そして枡野さんは自分の離婚経験を元に小説『結婚失格』を執筆し、文庫版の解説を依頼します。その解説文で町山さんは小説の主人公、つまりは枡野さん自身を批判して叱咤しました。《すぐに家出したまえ。自分は正しいと思ううちは帰って来てはいけない》――と。それから7年、町山さんと枡野さんが直接「そのこと」を語りあいます……。
【第6回の初登場人名】島田裕巳、吉田豪、ターザン山本(敬称略)
「正しくなくても人間として魅力的であれと町山さんは…」(枡野)
枡野 それでね、町山さん!
町山 はい。
枡野 町山さんがいつもおっしゃる、「人は成長していく」みたいな話でね、町山さんが最近、『君の名は。』に関して……。
町山 なんだろう?
枡野 あの、『君の名は。』について話されてるとき、「順序とか論理とかじゃない部分を最近感じとるようになった」と言われていて……。
町山 あ~、はいはいはい。
枡野 そういう変化が町山さんの中にもあると思うんですけども、僕たちの『本と雑談ラジオ』ではいつも「町山さんのことは好きだけど、町山さんの読者はどうなんだろう?」っていつも話してるんですよ。
(町山さんの読者は)つまり、あまりにも町山さんの意見を受けとめすぎてしまうというか……。町山さんの意見が強いから。
古泉 町山さんみたいに、映画を観たらすぐ「この映画のネタ元はこれだ!」みたいなことを言いたがる人が物凄くいるんですよ。
町山 あ~~、それ、よくないねえ。
枡野 町山さんはわりと自分の読者にも優しいと思うし。あと、世界のダメさみたいなものを肯定するように、あるときからなったような気がするんですね、町山さん。
前のほうがもっとトンガッてた気がするんですよ。厳しかったり、人を批判したり。その辺の変化に関しては、どうしてそうなられたんですか?
町山 それは……何だろう……、そんな変わったかな?
枡野 なんか、僕の中の昔の町山さんは……。
町山 僕は、枡野くんの本(『結婚失格』)の解説に酷いこといっぱい書いたけど、あれが今も一番コアな自分だけどね。うん。
枡野 (町山さんの解説での批判について)あれからずっと考えていて……。
町山 俺はあれから変わってない。あれが一番コア……。たぶん一生変わらない。
枡野 町山さんは『結婚失格』という僕の本の文庫版に解説を書いてくださってて、それは「(枡野は)正しさというものの、正しさを主張するのではなく……」「正しくなくても、人間として魅力的であれ」っていう……。
町山 そうそう、そこが一番ポイントだと思う。
枡野 僕、町山さんに言われたことを受けとめつつも、どうしても世間一般の人たちが好きじゃないんですね。
町山 フフフフフ。
枡野 だから、とっても悪口言っちゃうし、この自分たちのラジオのリスナーにさえ、悪口言っちゃうんですよ……。
古泉 ラジオに対するリスナーさんのコメントに、枡野さんは厳しい(笑)。せっかく書き込んでくれているのに。
枡野 そのへんのことが「大人」っていうキーワードで言えるのかなって思うんですけど。
町山 いや、でも、そういう枡野くんはそれはそれで面白いから、魅力的なんですよ。
枡野 どうなんでしょうねえ。
町山 普通一般の魅力的だなっていうのは、誰にでも愛想がいいことじゃないですか。