羽生結弦とブライアン・オーサーに「6年の確執」? フィギュアスケートブームを利用するメディアの罪

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『anan 2018/02/14』(マガジンハウス)

 開催中の平昌五輪にて、右足首を故障していた日本フィギュアスケート界のエース・羽生結弦(23)が、大舞台にふさわしい素晴らしい演技を魅せて世界中を湧かせた。1711月のNHK杯の公式練習中に右足をひねって転倒し、右足関節外側靱帯を損傷したことで、実戦は10月のロシア杯以来、実に4カ月ぶり。世界中のフィギュアファンが羽生結弦の回復を固唾を飲んで見守る中、いたずらに不安を煽る記事が13日発売の「FLASH」(光文社)と「週刊文春」(文藝春秋)に掲載されていたことが気にかかった。

FLASH」が注目したのは、12年から羽生結弦のコーチを務めているブライアン・オーサー(56)が、6日に報道陣の前で発言した「日に日に(羽生結弦の状態は)良くなっている。大丈夫だ。私は楽観的に考えている。結弦のことを過小評価していけない」との言葉。同誌は、この発言を「羽生結弦に重圧をかけている」とし「噂通り2人の関係は冷え切っている」と報じた。

 羽生結弦が330.43点という世界最高得点を獲得した15年グランプリファイナルでは、4回転ジャンプはトウループとサルコウの2種類しか飛んでいなかった。しかし、フィギュア界が“4回転時代”を迎えたことで、「究極の負けず嫌い」で「自分が大好き」な羽生結弦が4回転ルッツをプログラムに取り入れようとし、戦略派のブライアンと意見が衝突。大技勝負よりも、高得点を狙ったプログラム作りを重視するブライアンは「結弦は言うことを聞かない」とこぼしていた……という。

 「週刊文春」もまた、「『美学』と『戦略』葛藤の果てに…ブライアンコーチとの愛憎6年」と題し、16年のグランプリシリーズにて羽生結弦が2位に終わったのは「技術構成点のせいだ」とのブライアンの発言に注目。この発言が、当時、新たに取り入れた4回転ループに「頑固なほどの理想主義者」の羽生結弦が気を取られすぎたため、他演技が雑になっているとの指摘だとし、2人は話し合ったものの、羽生結弦が4回転ループにこだわり引かなかったと報じている。

 両誌に共通するのは、羽生結弦が「究極の負けず嫌い」かつ「頑固なほどの理想主義者」で「自分が大好き」な性格ゆえ、ブライアンの言うことを聞かず確執が生まれているとの論調。「週刊文春」に至っては、1710月のロシアのスポーツサイト「R-Sport」に掲載されたブライアンの「(羽生結弦は)五輪に集中しすぎている。結果も大事だが、たまには楽しんでほしい」との言葉を取り上げ、なぜか同じくブライアンがコーチを務めるスペイン代表・ハビエル・フェルナンデス(26)との私生活を関係者が比較。休みを取らずに日々練習場と自宅の往復をして生活する羽生に対して「フェルナンデスは練習に寝坊するなど羽生とは対照的」「それも人間らしい」「表現力を高めるためには恋をしたり、遊んだり、人生を楽しむことも必要」とブライアンは考えているそうだ。

 14年、中国杯にて衝突事故を起こした後も休まず試合に出場し続けた羽生結弦にとって、4カ月もの間、実戦に出場せずに五輪に挑むことが、どれだけ大変なことかは想像に容易い。にも関わらず、羽生人気にかこつけて、怪我は羽生結弦の性格に問題があったとも読める文脈で、信憑性の薄い「コーチとの確執」という安っぽいドラマのような記事を掲載した両誌には憤りを感じる。なお、「週刊文春」は4回転ルッツを回避し「オーサーが組みたかったスコア重視のプログラムになりそう」と予測していた。

(夏木バリ)

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