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羽生結弦「嫌われたくない」の真意は? 相次いだ“嘘みたいな記事”と中傷

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羽生結弦

amazonより(『FIGURE SKATERS Vol.9』インロック)

 2014年のソチ五輪に続き、2018年平昌五輪でもフィギュアスケート男子で金メダルを獲得した羽生結弦選手(23)。フィギュアスケート男子の五輪連覇達成は、66年ぶりの快挙である。一夜明けた218日におこなわれた記者会見の最後に、羽生選手は印象的な言葉を残した。

 昨年11月に公式練習にて右足を負傷し、治療とリハビリを経て平昌五輪に臨んだ羽生選手。この三カ月間の心理状態について記者から質問を受け、羽生選手は次のように語った。

「3カ月間のメンタルに関しては、うーん……なんて言ってほしいですか?(笑)
うーんと、とくに自分の心から、自分の頭が先導で、ネガティブなことに引っ張られることはなかったですけど、環境、状況、状態、条件。そういったものから、外的要因からすごくネガティブな方向に引っ張られました」

「ほんとのほんとの気持ちは嫌われたくないってすごい思うし、色んな方に見られれば見られるほど、色んなことをしゃべればしゃべるほど嫌われるし(笑)、色んなこと書かれるし、なんか嘘みたいな記事が多分これからもっともっと出てくるんだろうなって思います。
ただ、僕がしゃべったこと、僕が作ってきた歴史、それは何一つ変わらないし、自分の中で今回は誇りを持って、本当に誇りを持って、オリンピックの金メダリストになれたと思ってるので、これからの人生、オリンピックの金メダリストとしてしっかり全うしたいと思います」

 羽生選手は2012年の世界選手権で銅メダルを獲得した際のインタビューで、「メディアは多くの方々に自分の声を届けていただける場だと思います」と語っており、メディアと良好な関係を築いていた。しかし2014年のソチ五輪で金メダルを獲得後は、マスメディアによる“アイドル扱い”が過熱し困惑することもあったという。本人はアイドルを名乗らず一人のアスリートとして立っていても、アイスショーや祝賀会への出演依頼は殺到する。羽生結弦は否応なしにアイドルとして、国民的スターとして扱われるようになった。

 20161月には、プライベートに関するデマ報道があった。女性週刊誌による羽生選手と元同級生女性の婚約スクープで、記者は女性に「羽生さんの子供を妊娠・中絶したんですよね」と無遠慮に問いただしたうえ、その女性の実名がネットでさらされる事態にまで発展。羽生選手は会見を開き、「火のないところに煙は立たないというけど、本当に火もないところ」と全面的に否定した。

 羽生選手はこのことについて、20167月に発売された著書『蒼い炎II-飛翔編-』(扶桑社)の中で、<1月初め、足は痛いし、身に覚えのない報道が出たりして人間不信みたいになっていたので、ショーで滑れることがすごく幸せだったんですね。スケートって自分の意思だけで出来る。そこには誰も介入できないから>と綴っている。

 “嘘みたいな記事”はプライベートな事柄についてだけではない。平昌五輪後に羽生選手が引退するという報道、そしてここ三カ月の右足の状態や、ブライアン・オーサーコーチとの関係についておかしな報道も少なくなかった。インターネットでエゴサーチをすれば、無責任な誹謗中傷の言葉にすぐたどり着く。

 ただでさえ噂は尾ひれをつけて遠くまで拡散していくもの。マスメディアによって自身の発言が歪曲されて伝えられ誤解を受けること、それが一般ネットユーザー間で拡散されていき誤った情報がさも真実のように受け止められることは、ただ迷惑なだけでなく、不愉快な苦痛を伴い、自尊心も傷つけられる。

 しかし、冒頭の会見で羽生結弦選手は、たとえ“嘘みたいな記事”が出たとしても、「僕がしゃべったこと、僕が作ってきた歴史、それは何一つ変わらない」と明言している。そこには弛まぬ努力を続けてきた自負と、自分自身、そしてトロントで支えてくれたチームへの信頼、スケートへの集中力がある。それでも彼が決して「傷つかない」わけではない、ひとりの人間であることを示す言葉だった。

 羽生選手が会見で発した「嫌われたくない」というフレーズは多くのファンに衝撃を与え、スポーツ報道のあり方に一石を投じている。勘違いしてはいけないのは、羽生選手が批判や注意を受け付けないわけでも、過剰なプレッシャーを拒絶しているわけでもないことだ。一切のネガティブな報道にNOを突きつけたりはしていない。過去の発言から拾えば、たとえば2011年のグランプリファイナル後、<厳しい意見を聞くとやはり、悔しさを感じますが、そんな意見があるからこそ「やらなければ!」と思います>と発奮。また金メダル獲得など上位入賞へのプレッシャーについても<“期待される”という感覚が好きです。プレッシャーではなく快感なんです>と発言している。

 向き合うべき言葉には対峙する。そのうえで他者の言葉に取り込まれない。ライバル選手のことを熱心に観察・分析する一方で「自分に集中」する。そのバランス感覚はまさに見習いたいがそうそう真似できない。だから羽生選手はスターなのだ、などと結論づけてはいけないと思うが、ネガティブな方向に引っ張られながらも、軸をぶれさせず競技をやりきった羽生選手の精神力はやはり称える以外にない。今後も現役続行を明言している羽生選手、まずは2月25日のエキシビションを楽しみに待ちたい。


(参考)
羽生結弦『蒼い炎』扶桑社
羽生結弦『蒼い炎Ⅱ-飛翔編-』扶桑社
羽生結弦『羽生結弦語録』ぴあ
野口美惠『羽生結弦 王者のメソッド』文藝春秋

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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