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大杉漣さんをしのぶ。現場とものづくりが好きな、愛された人柄

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 昨日の夜は数人で集まって外食をしていた。和食がとっても美味しいお店で、みんな大いに喋りながらも箸が止まらずに次々と出された品を平らげていたのだが……。そんなわいわいとした空気が、ひとりがスマホの画面を見て発した一言で一変した。「大杉漣さんが亡くなったって!」……。全員の箸がぴたりと止まる。オオスギレン……とてもよく知っている名前なのに、なぜかそのときはすぐに「あの人だ」と結びつかなかった。いや、あまりの驚きで脳が結びつけることを拒否していたのかもしれない。あわてて自分のスマホを見る。「俳優の大杉連さん急死、66歳」の文字がニュースのトップにあった。その夜、店にはほかに数組のグループがいたのだが、皆同じようにスマホをのぞき込みながら「嘘!」と大声をあげていた。さっきまでてんでばらばらの話をしていた見知らぬ客同士が、突如ひとつになった。

 筆者と同じように、昨日は多くの人が突然の訃報に驚きショックを受けたことだろう。大杉さん、いや漣さんは現在放送中のテレビ東京のドラマ『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活をしたら~』に出演しており、昨日221日は第3話の放送日でもあった。筆者は前シリーズの『バイプレイヤーズ』放送当初から同ドラマの大ファンで(好きすぎてLINEスタンプも購入している)、この企画を考えたテレ東のテレビマンは天才だわとずっと思っていた。大杉漣・遠藤憲一(56)・光石研(56)・田口トモロヲ(60)・松重豊(55)(前作には寺島進も出演していた)。名脇役と呼ばれるベテラン俳優たちが、それぞれの名前のままで本人役として登場するこのドラマ。いったいどこまでが素でどこからが演技なのか――。戸惑いを感じるほどのごちゃ混ぜ感が最高なのである。物語は終始ゆるく、ただただおじさんたちが愛くるしい。

 シーズン2が放送されると聞いたときも「そらそうだろう。みんなまたあの可愛いおじさんたちが見たいよね」と激しく納得したものである。漣さんはこのドラマの中心人物であり、最も年上のため、みんなをまとめて引っ張っていく役柄を演じていた。まとめると言えども、その実、まとめきれずに毎度トラブルメーカーとなる漣さん。ほかのメンバーは年長の漣さんを気遣い敬い、ときにはめんどくさく思いながらも最終的には一丸となってひとつの作品を作りあげていく。今回なら架空のテレ東朝ドラ『しまっこさん』がそれだ。作中では、『しまっこさん』をよりよい作品にするために、漣さんを始めおじさんたちが奮闘し始めたところだというのに……。

 昨晩221日放送された同ドラマでは最後に主要メンバーが連名で次のような追悼テロップが流された。「余りにも突然のことで、メンバー一同、まだ現実を受け入れられないでいます。最後の日まで、役者として現場に立ち、みんなを笑わせ続けていました。永遠に我々の目標であり、憧れでもある漣さんを、一同、心から誇りに思います」。番組は28日の第4話、そして37日の最終話がまだ残っているが、今後の放送については検討中だという。第4話は7割、最終話は3分の1ほどが撮影済みだがまだ未完成の状態だそうだ。だが、ぜひぜひ放送してほしい。未完でもいい。この番組での漣さんを最後まで見届けたいと思うのは筆者だけではないだろう。きっと漣さんも放送されることを望んでいるのではないだろうか。

 漣さんは20日も千葉県で行われた同ドラマのロケに参加。収録後に松重氏らとホテルで夕食を共にし、自室に戻ったところで腹痛に襲われたという。出演者はグループLINEでつながっており、漣さんはそこに「具合が悪い」とメッセージを送った。それに気づいた松重氏がタクシーで千葉県内の病院に連れて行ったのだが容態が好転することはなかった。最期の瞬間は、松重、遠藤、田口、光石氏らが看取ったという。まるでドラマさながらの展開、漣さんの最期を看取ったメンバーの胸中はいかばかりであっただろうか――その様子を想像しただけで目に涙がにじんでしまう。

 漣さんは1980年にピンク映画『緊縛いけにえ』で映画デビュー。以降、様々な映画やドラマに出演してきたが、転機となったのは1999年に製作された北野武監督作品の『HANA-BI』で、この作品で日本アカデミー賞で助演男優賞を受賞している。これをきっかけにますます活躍の場を広げるようになった漣さん。コワモテの風貌を生かしたヤクザ役から、実直な会社員、イヤなオヤジから誠実なおじさん、優しいお父さんまで様々な演技で観客を魅了してきた。まさに300の顔を持つ男、だ。

 最近ではバラエティ番組への出演も増えていた。男性芸人と熱く濃厚なキスをかわして、コワモテイメージを一新したことも記憶に新しい。BSフジのお散歩番組でも気さくな人柄が画面からよく伝わった。昨年一月からは『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ)の名物コーナー『グルメチキンレース ゴチになります!』にレギュラー出演していた。ときに軽妙なトークで周囲を笑わせ、ときに穏やかな表情でゴチメンバーを優しく包み込み、ドラマとは違った一面を披露していた。同番組の前回収録は212日に行われており、これに漣さんも参加。この様子は222日に予定通り放送されることが決まったようだ。

 長い下積み時代があったせいか、撮影現場ではスタッフや共演者に常に気遣いの人だったという漣さん。売れっ子俳優となったあとも、作り手の熱い情熱を感じることができたならインディペンデント系の小さな作品にも積極的に出演していた。少ないギャラを気にする様子などみじんもなかったという。ほんとうに現場とものづくりが好きな人だったのだろう。盟友とも戦友ともいえるビートたけし(北野武氏・71)は昨日、『TVタックル』(テレビ朝日系)の収録後に訃報を聞いたようで、共演していた東国原英夫氏が自身のツイッターでその様子を伝えている。それによると「大杉漣さん急死の報が飛び込んで来た。本当に吃驚である。丁度、TVタックルの収録が終わったばかりで、師匠も全ての動きが止まっていた」とのこと。今朝のワイドショーでは俳優の高橋克典氏やナインティナイン、ほか多くの芸能人が漣さんの死を悼むコメントをメディアに寄せている。あまりに突然のことに、まだこれを現実のことだと受け入れられない人も多いようだ。それは筆者を含む視聴者側の人々も同じだろう。もちろんご遺族のお気持ちは察するに余りある。

 映画、ドラマ、バラエティ、舞台、CMと様々なフィールドで、現在進行形で八面六臂の活躍をしていた漣さんの急逝に、各業界はすでに収録済み作品の放送をどうするか、今後の代役をどうするかで大わらわとなり、静かに故人を悼むことがまだ出来ない関係者も少なくないだろう。大変なことだ。繰り返すようであるが、収録済みの作品はすべて公開してほしい。漣さんの突然の死は悲しいが、彼が心を込めて演じたものがお蔵入りとなってしまうことはもっと悲しいからだ。単なる一ファンではあるが、筆者もこの場を借りて漣さんに心から「ありがとう」を言いたい。まだ漣さんがいないことを受け入れられはしないけれど……これまで多くの作品であなたの演技を楽しませてもらいました。ほんとうにほんとうにお疲れさまでした。ありがとうございました。

(エリザベス松本)

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