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※この記事はメタモル出版ウェブサイトに掲載されていた森戸やすみさんの連載「小児科医ママの子どものケアきほんの『き』」を再掲載したものです
よく「妊娠中にかかりつけ医を探しておこう」と言いますよね。それは、子どもが生まれると、特に最初の数年は予防接種や健康診断、風邪やその他のトラブルで通う必要があるからです。生まれた際に特別な問題がない場合は、大病院ではなく近くの診療所をかかりつけにしましょう。
では、かかりつけの診療所はどうやって選んだらいいでしょう。
子どもは普通、小児科をかかりつけにしますね。何科が専門かを掲示などで知らせることを「標榜する」と言いますが、「内科/小児科」と「小児科/内科」と標榜している診療所があったとしたら、どちらを選びますか?
複数の医師が在籍する診療所であれば、内科と小児科と両方の医師がいるのかもしれません。でも、「内科/小児科」と標榜していて医師が一人なら、ほとんどの場合は内科医が小児科も診るということです。反対に「小児科/内科」と標榜していて医師が一人なら、小児科専門医が内科も診ますよということです。小児科専門医かどうかを確認したい場合は、日本小児科学会のサイトで検索することができます。
私は小学生以上の大きい子どもは「内科/小児科」診療所をかかりつけにしてもいいかもしれないと思いますが、未就学児とくに1歳未満の乳児は「小児科」または「小児科/内科」を標榜している診療所で、小児科専門医に診てもらったほうがいいと思います。
医師になるには、医学部で全部の診療科を勉強します。整形外科医になる人も内科や皮膚科を勉強するし、病理医を目指す人も眼科や消化器外科も勉強します。でも、以前は医師国家試験に合格すると、どこかの科にすぐ入局して診療を始め、他科に勉強しに行くことはほぼありませんでした。そういうキャリアパスだと専門性が高くなりすぎて、いわゆる専門バカになってしまう危険性がありますね。泌尿器には詳しいけれど、産婦人科のことは全くわからないという医師になりかねません。
人は複数の病気に同時にかかることがあるし、ひとつの病気を追っていたら全く別の病気にもなるということだってあります。原因不明の発熱と皮疹だと思われていたら、成人にはめずらしい川崎病だったなんてこともあります。川崎病は小児科ではめずらしい病気ではないので、小児科の診療に慣れていれば診断にそれほど手間どらないのですが、大人しか診ない医師は鑑別疾患に浮かびにくいでしょう。
そこで、医師が幅広い知識と経験を持てるようにと、2004年に医師臨床研修制度が見直されました。医学部卒業後の2年間は、内科を6か月、救急は3か月、あとは外科・麻酔科・小児科・産婦人科・精神科の5科の中から2つを選んで研修します。その後、志望する科に入局するという仕組みになったのです。
そのため、若い医師は小児科診療をしたことのある場合が多いのですが、2004年以前に医師国家試験に合格し、ローテーションあるいはスーパーローテーションという複数の科を回る研修プログラムを受けなかった医師は、小児を診るトレーニングを受けていません。
それでも標榜するものの中に小児科を入れても違法ではないので、多くの患者さんに来てほしい場合、看板に小児科を入れることがあります。それでは小児科のことをどのくらい知っているのか心配になりますね。私も心配です。
特に1歳未満の乳児(ベビー)と呼ばれる年頃は、予防接種がたくさんあります。かかりつけ医は、数年に一度は変わるワクチン事情をちゃんとキャッチアップしていないといけません。定期予防接種は決められた期間内に受けそこねると、有料になってしまいます。成長発達が著しい時期でもあるし、最近は親御さんが発達の遅れやアンバランスを気にされているので、病気だけでなく成長発達にも詳しくないといけません。さらにアレルギー界隈も、数年ごとによいと言われることは変化するし、新しいことがわかってくるので、その知識も必要です。ですから、子どものかかりつけ医は、小児科専門医であることがベストでしょう。
とはいえ、内科でもそういったことを勉強して詳しい医師もいるし、小児科医なのに不勉強でしかもコミュニケーションが取りにくい医師もいるでしょう。それは医療機関が新しいとか規模が大きいとか、建物が立派などということとは、なんの関係もありません。さらに学位をもっている医学博士かどうかとか、出身大学がどこの医師かということとも関係がありません。
どういう医師がいいかというと、距離的に近い以外にも心理的に近く、なんでも相談できて説明もわかりやすい医師がいいですね。質問して嫌な顔をされないかなど、保護者の方は相性も含めてよく見てみましょう。そして、発熱だけで条件反射のように抗生剤を処方しない、保護者に説明なく勝手に検査をしない医師がいいと思います。この二つは私の経験からいえることです。
かかりつけ医として適切な医師かどうかを見極める万能なチェックポイントはありませんが、実際に行ってみて判断してくださいね。