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※この記事はメタモル出版ウェブサイトに掲載されていた森戸やすみさんの連載「小児科医ママの子どものケアきほんの『き』」を再掲載したものです
昔は医療機関内の「院内薬局」で薬を処方していましたが、今では医薬分業が進んで医療機関とは別の「院外薬局」で処方されることのほうが多くなりました。医療機関と薬局の2か所に行かなくてはならなくて不便なこと、院内で処方するよりも少し価格が上がることから、患者さんにとってメリットが少ないのではという声があるようです。
でも、医薬分業には、以下のような素晴らしいメリットがあります。
【1】本当に必要な薬かどうかをチェックできる
必要以上にたくさんの薬や高価な薬を処方したりすることを防げます。薬の種類や量も確認できるので、患者さんの安全のためにも、医療費抑制のためにもいいでしょう。
【2】複数の医療機関で処方された薬を一度に受けとれる
複数の医療機関の処方箋をまとめて処方してもらうこともできますし、薬同士の飲み合わせもチェックできます。
【3】処方箋があれば代理人でも受け取れる
処方箋があれば、薬をもらうのは代理の人でもかまいません。医療機関に行って待ち時間が長いと困りますが、いったん処方箋を提出して都合のよいときに受け取りにいくとか、子どもを家に連れて帰ってから受け取りに行くということもできますね。最近ではファックスやメールで処方箋を受け付けている薬局もあります。
【4】院内薬局よりも薬の種類が多い
一般的に院外薬局のほうが薬の種類も剤型も多いので選択肢が増えます。シロップ、粉薬、坐薬がいいなどの剤型の希望を医療機関で伝え忘れた際は、薬局で相談してください。そのほか、例えば「保育園で投薬してくれないから、薬は1日3回じゃなく2回にしてほしかった」とか「子どもの体重を間違えてしまった」などというときも、薬剤師が医師に連絡して変更してくれることがあります。ただし「風邪だから抗生剤はいらないって言われたけど、念のために出してほしい」というような診療内容に関する変更はできません。
【5】薬について詳しい説明を聞くことができる
薬剤師は薬のプロですし、説明義務もあるので、薬の飲ませ方や吸入のさせ方、点眼・点鼻のやり方などを聞くことができます。もちろん、医師や看護師に聞いてもいいのですが、医療機関で聞き損ねたときや時間がなかったときは、薬局で聞いてみてくださいね。
処方箋をもらったら4日以内に薬局に持っていかないといけないという決まりもあります。それでも、もしも期限をすぎてしまったときは、薬剤師が処方した医師に確認して期限を延ばしてくれることもあるので、処方箋を捨てる前に薬局で相談しましょう。でも、あまり日数が経っていると医師に連絡がつかないかもしれないし、症状が変わっていることもあります。なるべく早く薬に変えてください。
なお、クリニックなどが「処方箋は○○薬局に持って行ってください。ほかの薬局ではダメです」などと言うことがあるようですが、それは違法です。じつは、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」によって、以下のように定められています。
保険医療機関及び保険医療養担当規則第 2 条の 5
保険医療機関は、当該保険医療機関において健康保険の診療に従事している保 険医(以下「保険医」という。)の行う処方せんの交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行ってはならない。
保険医療機関及び保険医療養担当規則第 19 条の 3
保険医は、処方せんの交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行ってはならない。
医療機関も医師も、特定の薬局から紹介料やキックバックをもらってはいけません。眼鏡やコンタクトレンズについては法令での決まりはないのですが、やはり患者さんに特定の眼鏡店をすすめたり、「指定した店で作らないのなら、眼鏡・コンタクトレンズの処方箋は出せません」などと言ったりすることは不適切な対応です。こういうことがあったら、お住まいの地域の厚生局か、市区町村の保健所・保健センターに連絡をしましょう。
最後に、お薬手帳のことです。「お薬手帳を断ろう」、「お薬手帳は利権の匂いがする」と言った人がいますが完全に誤解です。お薬手帳は飲み合わせのチェックをする際に役立つうえ、医療機関が変わったときに紹介状がなくてもある程度の治療経過がわかる優れものです。患者さんに「前のクリニックでは、どんな薬を出されていましたか?」と聞いても、みなさん覚えていないものです。「青い蓋の軟膏です」、「いろいろ混ざった粉薬でした」、「白い錠剤でした」という覚え方では、手がかりになりません。災害時に診療記録がない中で薬が必要な場合は、お薬手帳が唯一の情報源ということもあります。ぜひ活用してくださいね。