オーディションに合格しても、経済的問題は消えない
上京後は誰の助けも借りることは出来ないため、まずは自分の生活費を稼ぐ必要があった。オーディションや稽古などで休んだ時でも対応できるよう、シフトの自由度が高いバイトをすることになった。それでもオーディションは一向に受からない。夜はひとりで泣くことが多かったという。
「月が綺麗だな、と思うと、なんだか『今ひとりなんだ』という気がして、孤独を感じるんです。一年前はああだったな、とかいろいろ考えてしまって。もし、ちゃんと働いていたら今ごろ何してたんだろう、とか」
「大丈夫かな。これで正しかったのかな」という気持ちと、「やると決めたんだから、やらないと」という気持ちが交互に襲ってきていたある日、舞台のオーディションに合格。『レディ・ア・ゴーゴー!!』という若手女優が多数出演している舞台でのアイドル役だった。すぐに両親に舞台のことを報告すると、「浮かれないで。それで食べていけるわけじゃないから」と言われたそう。そんなことは自分が一番よくわかっている。だから焦るし葛藤するのだ。舞台の他に、ゲームアプリなどでの声優の仕事も経験したが、それだけで食べていけるには程遠かった。
現在は、舞台の稽古やオーディションを受けつつ、アルバイトを3つ掛け持ちしている。由加さんのスケジュールはいつも一杯だ。
「動いていないと、もったいない。せっかく東京に来たんだから」
彼氏はいたことない。作ったらいけない
可愛らしくて小動物のような由加さんだが、これまで彼氏ができたことはないという。
「恥ずかしいとかいう気持ちもあるけど、今は、そんなことをしている場合じゃない、という気持ちのほうが強い」
恋愛と仕事、どちらかを選ばなければならないとしたら、「迷う間もなく絶対に仕事」と言い切った。
「いつかは結婚したいし、恋愛経験がないことで演技でマイナスになることもあるかもしれないとは思うけど、演技のために恋愛するのも違うと思うし」
葛藤は続くけど、来てよかった
由加さんは、舞台やテレビでオールマイティに活躍できる女優を目指している。
「いつ死ぬかわからないから、時間を無駄にしないように、今できることを精一杯している」と力強く語る一方で、依然として不安は消えない。
「地元に帰ろうかな、と思うことは多い」
「就職したほうが、例えば家族を経済的に支えられたりとか、誰かのためになることもあるのかなって、思う時もある」
それでも東京に来てよかったことだけは確かだという。
「実家にいたら考えなかったことを考えるようになったし、甘えが減った。父や母に心から感謝できるようになった。実家に帰った時には『なんか成長したね』って言われることもあって、自分は変われたんだなって、思うんです」
上京したことで確実に不安な夜は増えただろう。でも、その不安や葛藤があったからこそ、見えるもの、得られるものもある。
「尊敬している声優の佐久間レイさんに言われたんです。『役者はセリフが決まってるけど、日常生活でのセリフは自分で選べる。自分でどんなセリフを選ぶかによって、印象は変えられるし、また仕事したいって思ってもらうこともできる』って。だから、自分の言葉に責任を持ちたい。また会いたいと思ってもらえるセリフを選びたいって思うんです」
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