政治・社会

視聴率激減でも膿を出し切る!〜 #MeToo /社会問題一色の第90回アカデミー賞

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 3月4日に開催された第90回アカデミー賞。もっとも印象に残ったのは『スリー・ビルボード』によって2度目の最優秀女優賞を獲得したベテラン女優、フランシス・マクドーマンドの受賞スピーチだった。

 ステージに上がったマクドーマンドはかなり緊張した様子だったが、「言いたいことがあります」と、重要なメッセージがあることを示唆した上で、「すべての女性候補者は立ち上がってください。女優たち!」と語りかけた。最前列に座っていたアカデミー賞史上最多の21ノミネートを誇る大女優メリル・ストリープに向かって、「メリル、あなたが立つと皆が立つから」と声を掛け、ストリープが立ち上がると「フィルムメーカー、プロデューサー、監督、脚本家、シネマフォトグラファー、作曲家、デザイナー……さぁ!」と続けた。

 女性候補者たちが立ち上がり、満場の拍手が巻き起こる中、マクドーマンドはスピーチの最後に謎の言葉を残した。

「インクルージョン・ライダー!」

 アメリカでも一般的には馴染みのない言葉だが、インクルージョン・ライダー(多様性付帯条項)とは、映画出演契約の際に「出演者や技術者の民族人種やジェンダーなどを多様にすること」という要求を加えることを指す。

 人気も知名度もない俳優にはもちろん無理なことだが、アカデミー賞にノミネート/受賞した大物なら可能だ。マクドーマンドは自分も含め、映画業界の多様化を推し進めることができる立場にある女性たちを讃えると同時に、多様化推進の役割と責任を担うことを要求したのだった。

トロフィー像には「ペニスがない!」

 今年のアカデミー賞は、1月のグラミー賞(第60回グラミー賞は社会的メッセージの場となった~女性・マイノリティ・移民・銃・トランプ)と同じく、#MeToo, #TimesUpに象徴される性的ハラスメントへのアンチ・メッセージが大々的に含まれる政治的、社会的なものになると予測されていた。蓋を開けてみるとハラスメントの問題にとどまらず、人種問題、移民問題、ジェンダー問題、アンチ・トランプ政権も繰り返し語られ、すべての問題を「インクルージョン(含める)」してスピーチをおこなう受賞者やプレゼンターもいた。

 司会は昨年に続いてコメディアン/トークショー・ホストのジミー・キンメル。オープニングで #MeToo ムーブメントのきっかけとなった大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン(ハリウッドの怪物プロデューサー、ワインスタイン怒涛のタイムラインと、女性たちの「#MeToo」)、共演者やスタッフへの性的嫌がらせでハリウッドから追放された大物男優ケヴィン・スペイシーの名を出すことから始め、オスカー(アカデミー賞トロフィーの黄金の男性像)さえ、ジョークのネタとした。

 今年はアカデミー賞第90回目の記念すべき年であるとして、キンメル曰く「オスカーは今夜90歳となりました。オスカーはハリウッドで最も愛され、尊敬される男性です。なぜなら両手をいつも股間の前に当てて(局部を隠し)、失礼なことは言わないし、ペニスは一切無し!」

 さらにペンス副大統領にもキンメルのジョークは及んだ。

 「『君の名前で僕を呼んで』のような作品は、お金のために作られるわけではないんだよ。ペンスを怒らせるために作るんだよね」

 ペンス副大統領は強硬なアンチ同性愛者として知られる。

 政治や社会問題を、対象者を怒らせることを恐れず、しかしギリギリの線で行き過ぎないジョークにしてウケを取るのがコメディアンの仕事なのだ。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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