社会

視聴率激減でも膿を出し切る!〜 #MeToo /社会問題一色の第90回アカデミー賞

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ワインスタインの被害者が続々とスピーチ

 多くの女優がプレゼンターや受賞者として性的ハラスメントについてのスピーチをおこなった。中でも印象的だったのがアナベラ・シオラだ。1990年代に多くの作品に出演した実力派で、住み込みナニー(専門職のベビーシッター)から謂れのない復讐を受ける主婦を演じたサスペンス『ゆりかごを揺らす手』、黒人と白人の許されざる恋愛を描いた『ジャングル・フィーバー』など主演作もあった。しかし、いつしかスクリーンから消えてしまった。

 昨秋のワインスタイン騒動の際、シオラは長年の沈黙を破り、「ワインスタインにレイプされ、以後、仕事も回ってこなくなった」ことをついに語ったのだった。前途ある女優の人生を破滅に追いやったワインスタインの存在を許したのは、ハリウッドという映画業界そのものだった。今、映画産業の頂点であるアカデミー賞の場にシオラが招かれたことは、まさに象徴的と言えるだろう。

 女優への性的ハラスメントとは別に、スクリーンに映らない部門での女性の進出は極度に困難という問題もハリウッドにはある。だからこそ最優秀監督賞のプレゼンターとなった女優のエマ・ストーンは、ノミネートされた5人の監督をこう紹介した。

 「これら4人の男性とグレタ・ガーウィグは今年、それぞれの傑作を作りました」

 ガーウィグは『レディ・バード』によって同賞にノミネートされたが、アカデミー賞90年の歴史で女性が監督賞にノミネートされたのはガーウィグを含めて5人。うち受賞したのは『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロウのみである。

ケニア系のルピタ・ニョンゴはメキシコ人

 シオラと同じくワインスタインの犠牲者で、現在、公開中の『ブラック・パンサー』に出演し、今後が大いに期待されている女優のルピタ・ニョンゴはトランプの移民政策についてスピーチをおこなった。

「私たちはドリーマーです。いつの日か映画に出ることを夢見ながら育ちました。夢はハリウッドの土台であり、夢はアメリカの基礎なのです」

 子供の時期に親に連れられ、自分の意思ではなくアメリカに不法入国し、そのままアメリカで育った若者たちをドリーマーと呼ぶ。大統領のトランプは、オバマ政権によるドリーマーを保護する政策DACAを廃止し、ドリーマーの祖国送還を目論んでいる(トランプ「DACA廃止!」はいかに残酷か~80万人の若者とアメリカの行方 )。

 ドリーマーの大半はメキシコ生まれであり、ニョンゴもメキシコ人だ。ケニア人の両親のもと、メキシコで生まれた二重国籍のケニア系メキシコ人であり、現在はニューヨークに暮らしている。

 映画界ではすでにメキシコ系が活躍している。今回、最優秀作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』の監督、ギレルモ・デル・トロもメキシコ出身であり、受賞スピーチで「私は移民です」と語っている。ちなみに女性主演作が最優秀作品賞となったのは、女性ボクサーの物語『ミリオンダラー・ベイビー』以来13年振りのことだ。

 最優秀アニメ賞を受賞したディズニーの『COCO』はメキシコを舞台としている。吹き替え担当の多くはメキシコ系アメリカ人、またはメキシコ人アーティストだ。映画自体は英語だが、スペイン語の訛りやスペイン語のセリフもあり、英語話者のみでは不可能な作品なのだ。なによりメキシコ系を起用することにより、メキシコ系の観客にとって “リアル” になり、大きなプライドにもなった。アカデミー賞のステージで主題歌「リメンバー・ミー」を歌ったのもメキシコ系アメリカ人シンガーのミゲルだ。

 ニョンゴとともにスピーチをおこなったパキスタン系アメリカ人俳優のクマル・ナンジアーニはこう宣言した。

「すべてのドリーマーたちへ。我々は君たちを支援します」

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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