連載

小泉今日子が雄弁に語る! 独立後の初仕事に選んだ舞台「毒おんな」から見える目的地

【この記事のキーワード】

 もう自分は若くないからと言いつつ、年下の獣医が内緒で付き合っている牧場のアルバイトの少女のことは、牛の乳しぼりとチーズを作る以外に能がなくて知識と教養がまったくないとこき下ろします。「5、6回やるのはちょうどいいけど、つまんなそう」との直球の発言であっさり若い男を手玉に取る、年齢を重ねたからこその余裕にも説得力がありました。そして、後ろから抱きつかれてスポットライトが消える瞬間の表情の怖さ。楓という女性の目的はただお金ではないという複雑さが伺えました。

 所在地を知られたくないはずなのに、自撮りをふんだんに載せたInstagramを更新する楓の華麗な経歴は、実はすべてウソ。幼少時の家庭内不和と、母親のせいで父が亡くなるのを止められなかったことが心の傷となる過去の場面と、現代の牧場の光景が二重写しで展開され、過去の不安そうな表情が現代のシーンへ戻ってもしばらく曖昧なまま顔に浮かんでいるのが、とても演劇的でした。そして彼女を愛した男の末路は、いつも彼女の手にかかることに――

所属事務所欄、空白。

 ウソで固めた華やかな姿で、結婚をエサに男性を食いものにした実在の事件がありました。楓が振りまくのはそんな大きな罠から、会社からお金を持ちだした鰐淵への息子からの絶縁や、親の介護を妻に任せきりにする牧場オーナー夫妻のひずみの露呈、盛り盛りSNSへのイラつきなどといった、平凡な生活の中に潜む小さな不快感まで、現代社会のさまざまな「毒」です。彼女には自身の中の大きな痛みしか見えず、他人の痛みはわかりません。

 脚本の青木豪は、丁寧な人物描写と宛書に定評のある劇作家です。色気ムンムンの悪女ではなく、教養と余裕のある都会的な印象の女性によってそれまでの生活が壊れていくさまを、あえて今の小泉今日子に演じさせることに思わずニヤニヤしてしまうのは、脚本家の狙い通りになってしまったということでしょう。

 劇場で配布された公演パンフレットの俳優紹介には、客演者の所属劇団の他、とても珍しいことに各所属事務所も記されていました。もちろん小泉の欄は、空白です。

 ザ・スズナリの客席の最前列は、舞台と数10cmしかありません。その距離で観客の視線にさらされる作品を、人生の折り返し時期も迎えたリスタートに選んだことは、自分のやりたいことをやりたいようにやる、という意志の表れではないでしょうか。くだんの不倫相手と小泉は、舞台のプロデュースも協業しています。確かに世間のモラルには反しているけれど、本人いわく覚悟あってとのこと。その覚悟の一片が、「毒おんな」から覗いたように思います。

1 2

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。