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「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の“人生を使ったカウンター”

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それは二月六日の出来事だった。

「下とかじゃない上とかじゃない 見せつけるジェンダーレス 大事なのは変化です 不可能と言われた青いバラだってできたように 私はやってやる」

テレビ朝日系のMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』に出演した一人のラッパーが、モンスター・呂布カルマと対戦し、HIPHOPシーンのミソジニーを糾弾したのだ。

彼女の名は椿、福岡出身の26歳である。LIBRA主催のMCバトルの全国大会・ULTIMATE MC BATTLE(以下UMB)に女性初の本戦出場を果たし、女性限定MCバトル・CINDERELLA MC BATTLEの第二回大会では優勝、2017年末には1stアルバム『美咲紫』を発表するなど、10年のキャリアの中で着実に実績を重ねてきた。

「I’m a ラッパー ラップするお姉ちゃんとは違う」(「I’m a ラッパー」)というリリックの通り「一人の女性」以前に「一人の人間」としてステージに立ち続ける椿は、現在のHIPHOPシーンをどのように見てきたのか。二月某日、サイゾー本社にて話を聞いた。

花が欲しいだけなら他行きな(「ふるぼっこ feat.MC Frog」)

――二月六日のフリースタイルダンジョン放送後、どのような反響がありましたか。

椿:一般の視聴者の方がとても多くの反応を示して下さいました。特に性差別とか、ジェンダーの問題に敏感な人たち。それをHIPHOPの内部の人間は「外の人が色々言ってんな」と解釈している面があると感じました。必ずしも女性だったら私の主張に賛同してくれて、男性は理解できない、というわけではありませんでした。仲間からは、「自分たちは椿のスタンスを知っているから理解できるけど、バトルだけじゃ伝わりにくいよね」と言われました。

――現場では椿さんの主張に対するリアクションはありましたか。

椿:収録日はすごくいろんな方に話しかけて頂けましたね。女性ファンに「私たちの希望です」と言われたり、「あなたがやろうとしているのは一番難しいことだと思います」と声をかけてくれた男性ファンもいて……キャッチする人はキャッチするんだなーと思いました。

現場では「フィメールラッパーで一番だと思います」というニュアンスの反応が多いです。

――椿さんはフィメールラッパー限定の大会「CINDERELLA MC BATTLE」の第一回・第二回に出場し、第一回では特別賞受賞、第二回では優勝を果たしています。私はCINDERELLA MC BATTLEが他のバトルと違って、初めからオーディション制・顔写真必須だったことに強い違和感を感じています。「フィメールNo.1」というのはつまり、「女枠での評価」ということですよね。

椿:私はラッパーになりたくてラッパーになったのに、気付けばフィメールラッパーという枠の中で比べられていたことに違和感を感じてきました。下の世代の子たちが「フィメールラッパーに私もなりたいです」とか言ってくるのを聞くと、「フィメールラッパー」っていうのが誤解されている気がします。

「女枠」への一番でかいカウンターがUMB 2017の本選出場だったんですよ! もう念願(UMBは地方大会で優勝したラッパーが本選に出場するシステム)。UMBは性別不問の大会ですが、本戦に行くと「日本中の何千何百人を超えるエントリーの中から“日本一の男”を決めるために集まった〜」というナレーションが必ず入るんです。予選を含めたらいろいろな女性がエントリーしているのに、頂上決戦では日本一の「男」を決めるって言っちゃうんだ? って、ずっと疑問に感じてきました。今年やっとUMB本戦に出られたので、優勝したらみんなの前で「キング」に線を引いて「クイーン」って書いてやる! と思っていて。

――かっこいいですね!

椿:結果としてはベスト16で散ったので、その野望は叶わなかったのですが……でもあの時、もし私がUMB本戦の出場権を取ってなかったら……もっとやばかったと思うんですよ。フィメールの最終目標がCINDERELLA MC BATTLEの優勝、みたいになっちゃってた気がするんですよね。UMBのような男女混合の大会におけるクイーンの誕生を一つの道として示したら、何かが変わるんじゃないかと思ってるんです。これからもう10年かかる可能性もありますけど、いつか誰かがやらなくちゃいけないと思います。

もし日本一になれたら、「フィメールNo.1とかもう言うなよ」って、私は言いたいですね。

――「フィメールで一番」という呪いのような「褒め言葉」を浴びてきたんですね。

椿:そもそもそれが私にとって邪魔な言葉だと気付かない人が多いです。私は福岡代表としてUMBに出たのに、勝手に「フィメール代表」になってました。実際フィメールの本戦出場者は私が初めてだし、私も「ここで私がいいとこ見せられなかったらこの先二度とフィメールの出場者は現れないかもしれない、何が何でも勝ち登ってやる!」と思っていたので、そういう意味では確かにフィメールを背負ってる感覚はあったんですが……。

UMBの司会者が対戦者を紹介する時に、ずっと「次の男は……こいつだ!」っていうナレーションをしてたんですよね。私はたまたまトーナメント第一戦の最終試合だったんですが、最後に私が出てくる時、司会が「続いては……」でちょっと止まったんです。多分事前に何も考えてなかったんでしょうね。そしたら「次のフィメールは……こいつだ!」って言ったんですよ!

――うわあ……。

椿:もうその時点ですごく「踏みにじられた」と思ってイライラしまして、一回戦目の相手にも「初めてのフィメールだけど……」みたいなラップをしたんです。そしたら相手が「俺は何も言ってないのにそうやってお前がフィメールっていうのを持ち出してきてんだろう」って返してきて、「違う違う!」と思いました。現場の差別的な空気を受けての発言なのに、差別を感じるのは私だけであって大多数は私が脈絡もなく性別の話を始めたと受け取ったんだろうなと思ったら……もう果てしないなって思ったすね……。

――Twitter にも「差別を受信できるアンテナつけてやりたい」と書き込んでおられましたね。そもそもの感受性が違うせいで文脈を共有できないから話が噛み合わなくなったと。

椿:本当にそうなんです。よく「どっちが先にその話題を出した」って話になりますけど、「話題を出した」って意識するレベルが違うんですよね。UMBのナレーションだって、私がいる時点で最初から「次のMCはこいつだ!」にするべきだったんですよ。やっと本戦に立ってもまだこれかい! って、すごく幻滅しました。さらにその後試合で負けた後、主催者から「いや〜椿良かったね! やっぱりフィメールで一番だよ」と声をかけられて……その方は福岡予選の時に「男尊女卑が強い福岡で優勝したのはすごい!」とも言ってくれたので、何もわかってないわけではないと思うんですが……やっぱり「フィメールで一番」は日本一を決める大会の地方優勝者に対しての言葉じゃないですよ。他にも色んな方が同じことを言ってくれて……悪意がないのはわかっているんですけど、少し辛かったですね。

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巣矢倫理子

1995年生まれ。ライター。カルチャーと政治、ジェンダー、歴史などの問題を中心に執筆しています。

ブログ:SEPPUKU Web

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