「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の“人生を使ったカウンター”

【この記事のキーワード】

たった一つ、変わらぬビジョン 無理だと言われても今に見てろ(「夜明けの空に」)

――椿さんが目指してらっしゃるのは人間を男と女のふたつの性別でしか考えない男女二元論や「男らしさ」「女らしさ」に対するカウンターであって、「女」から「男」へのカウンターではないですよね。それなのに椿さんの行動を見て「女だから男に対して攻撃しようとしてる」というような、すごく浅い感想を抱く人が多くいるな、と思っています。「男」「女」という固定された関係を乗り越えようという主張とは受け取られてない。そういう誤解に関してはどう思われてますか。

椿:そういう風に見られてるんですかね……? 多分今まで見たことのない力が怖いんだと思います。自分たちの信じてきた都合のいい女性像、フィメールは格下だっていう解釈が崩れるのが怖いんじゃないでしょうか。仲間を敬愛するときに性別は関係ありません。私は根底に(男性性に対する)トラウマがあるのでいざとなれば攻撃できますが、その対象は「男」ではなく、ひっくり返したい現状です。

まず、そんなに浅い問題じゃないことをわかってほしいですし、私がわざわざどういう土俵に乗っているのかを考えてほしいです。何も楽しくないですよ、地上波出てまであんな下ネタ言われたり……(注:椿さんがダンジョンに登場したのは二月六日の放送で二度目。一度目はあっこゴリラさん・FUZIKOさんと三人のチーム戦で、R-指定さん・サイプレス上野さん・DOTAMAさんと対戦した。R-指定さんが三人をAV女優になぞらえるなど女性蔑視的なdisが飛び交い、結局一回戦敗退のジャッジが下された)。

本当に何も楽しくないですよね。そこに出ることで何かをひっくり返せるなら最高だから出てるだけなんです。「10年間頑張ってきた娘が地上波に出る」と喜んでいたお父さんも、放送を見たらブチギレちゃって。「お前はこんなひどい世界でやろうとしてんのか」って怒って悲しむんです。私もその反応が悲しかった。「そんなんじゃないとよ、私は一切セックスアピールしてないし、勝手に向こうが言ってきて泥塗ってるだけなんだよ」って……。二回目のダンジョンは、まずそういう試合にならないことが理想でした。

呂布カルマさんとの試合の内容も、数ある選択肢の中の一つでしかありません。番組の紹介VTRでは私が「ミソジニーに物申す!」という態度で最初から臨んでいるように紹介されていましたが、ああいう映像が流れることも直前まで知りませんでした。バトル前に40分ほど受けたインタビューの中で、初めてダンジョンに挑戦したときの3on3について聞かれて、「ミソジニーまみれじゃないですか」と言ったのが前に出てきたんです。絶対カットされると思っていたので驚いているぐらい。それがわかっていない人から「もともと自分が打ち出してきたくせに何言ってんだ」とか「わざわざそういうテーマを持ってくんな」とか、色々言われました。

呂布カルマさん自身の人柄は好きなんですよ、嫌いじゃないんです。でも過去に差別的だなと感じる発言が多くあって……。そういう印象が元々私の中に刻まれていたので、呂布カルマさんが出てきた瞬間に反差別という選択肢が解放されました。あくまで即興なんで、テーマがどうとかって騒がれると「わかってねえなあ」って思うんですけど。

――呂布カルマさんとのバトルの中で椿さんが出した「加齢臭」というdisについて「差別だ」という反応がありましたが、それについてはどう思われますか。

椿:あれ意味わかんないすよね(笑)。

――中年の男性から自然に出てしまうものに対しての性差別じゃないか、ということですね。

椿:笑っちゃいましたね。お父さんに対して「お父さん最近加齢臭するよ」って言えるように、自分の娘に「メンス(月経)の匂いする」(注:フリースタイルダンジョンで呂布カルマさんが椿さんに言ったDis)って言えるのか? と思いました。加齢臭は男性に限った言葉ではないので、性差別的なDisとは全く違うものだと思ってます。「差別もバトルだから許される」という意見にはNOと言います。

――今のところバトルの中で出てくる差別語を規制したりルール違反とみなす意識は無いに等しいですが、今後どのように変わるべきだと思ってらっしゃいますか。

椿:ルール化は難しいと思いますが、ボディタッチと差別語を同等に扱うくらいの意識はあってしかるべきだと思います。例えば性差別でしかないDisがあったとしたら、私は究極マイクを置いたとしてもいいと思うんです。「差別に返す言葉はない、私はラップの勝負がしたいんだ」というメッセージとして、マイクを置いても勝てるような空気になってほしい。それができたら最高にヒーローですよね。

――それは大会の仕組みや審査側のモラルの問題ですよね。

椿:そうですね。人種と違って、性の差別になるとみんな本当に疎いんですね。女性も男性も割と鈍い。女性は傷つくうちに諦めてるのかもしれない。

――フリースタイルダンジョンには麻薬の話題など放送コードにひっかかる言葉を隠す「コンプラ」がありますよね。ストリートの考え方や使われている言葉を隠すよりそのままの用語を使うことの方が「リアル」だ、HIPHOPはそういうものだという立場の人もいます。「お利口さん」にならないことによって見えてくるものは確かにありますし、ストリートで育ってきた人に「表に出るならお利口さんになりなさい」というのも暴力的な押し付けだと思います。しかし差別的なこと言うのはやはり良くない……と、もやもやしているのですが……。

椿:そうですね、「お利口さん」はやろうとしてもできないし、逆に取り繕うほうが気持ち悪いですよね……。コンプラに関しては、「なんでここはかけなかった!?」と思うことがあります。いくら表に見える部分だけクリーンにしたって、結局現場では「お前はゲイだ」とか言って上がったり女性蔑視みたいな曲でぶち上がっている人がいたり。

ただ私は、差別的な曲を歌うラッパーがいたら会場を出ます。そこに参加したくないので。「違う」と思ったらどんどん行動で示していく人が増えたらいいのかなと思いますね。フィメールラッパーに対しての下ネタ発言とかが出た時には、人種差別発言のように冷ややかな空気になるだけで多分変わると思うんですよ。そういう空気感がどんどん浸透して、女性差別に対しても「あいつゲスいね」っていう反応が増えれば多分みんな少し考えるようになるんじゃないでしょうか。

今フリースタイルダンジョンを見て喜んでいる層ってめちゃくちゃ若い子も多いじゃないですか。実際放送を見ためちゃくちゃ若いアカウントから「所詮女が」みたいなリプとか来て……(笑)。あぁ……この子達がどこかで簡単に人を傷つけてしまうんだろうなと思うと、いたたまれない気持ちになります。やっぱりフリースタイルバトルだけじゃHIPHOPのマインドは身に付かないんです。

――フリースタイルダンジョンがプラスだったのは、新規参入する人が増えることによって多少内輪の世界に空気が流れるようになったことがあるかな、と思いました。

椿:どの問題に対しても意外と大御所がだんまりしてるので、(ブーム以前では)この風は吹かなかったんだろうなと思うことはあります。名前もあって影響力のある人でも、とんでもないことや無関心でしかない発言を説得力あるように語ってたりするので、ちょっと怖いです。みんな差別の話題を避けてるんじゃないでしょうか。今まで何度もバトルに出ていますが、全く差別的な姿勢を取らずに対等に向かい合ってくれた人はとても少ないです。そのぶん、対等に戦えた相手はとても印象に残っています。

――差別的ではないバトルのほうがよっぽど少ないと。

椿:どんなにかっこいい、性格のいいラッパーでも、差別語はぽろっと出てきてしまう。周りのマイメンに「実際私とバトルする時にそういう単語が出ない自信ある?」って聞いたら、「椿相手なら出ないと思うけど他の女の子ラッパーと当たったら絶対言ってしまうわ」って言ってて。「そうだね、しかも『椿を見習え』とか言うやろ?」って話してました。

――「椿を見習え」はADRENALIN2015でCHARLES(シャルル)さんとMOL53(もえるごみ)さんが戦ったときに、MOL53さんが吐いたバースですね。

椿:「椿を見習え、お前じゃ足りねえ」ですね。MOL氏はマイメンなんで、私のマインドまで理解した上での発言だからオッケーなんですけど、あの発言に影響されたのか他の人にも同じことをよく言われるようになりました。それで私を褒めてるつもりなんでしょうね……。フィメールの枠にはめて比べる言葉は私のことも傷つけてるんだと知ってくれ! って思います。

――椿さんのバトルは相手がひどいことを言っていても椿さんが反差別の意思を持って戦ってらっしゃるのである程度安心して見られるんですが、「女枠での評価」をフィメールラッパー側が受け入れてしまっているバトルは見ていてしんどいです。

椿:「私の方が可愛い」て言い合ったりね。しんどいですね……それを変えたいです。好きでやってるならそれでいいんですけど……。それを面白がる人は、彼女たちをラッパーとして評価しているわけではなくて見下してるんだと思うので。

先ほどもお話したように、CINDERELLA MC BATTLEの時に見え方が変わっちゃったんです。私だけが正統派ラッパーだと表明するのは簡単ですが、それをしている限り多様性は絶対に認められないですから。

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