「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の“人生を使ったカウンター”

【この記事のキーワード】
「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の人生を使ったカウンターの画像2

椿『美咲紫』(此糸)

私達は知りたい 何が隔てた? 「こちら」と「あちら」 美咲の川(「美咲紫」)

――シーンにはホモフォビックな発言も多いですよね。

椿:ありますね、嫌ですね。そういう人たちの葛藤も背負って「ジェンダーレス」、「gender Jess」を着ています(注:gender Jessとは、葉山潤奈さんによるジェンダーレスファッションブランド。ダンジョン収録日・取材日に椿さんが着用していた)。

――椿さんは女性差別以外にも部落差別へのカウンターも明言されてらっしゃいますが、それに関しては何かきっかけがあったんでしょうか。

椿:思春期を、悲痛なバックボーンを背負った仲間と過ごしました。彼らは人生に選択肢がないために、格差や貧困といった負の連鎖から脱することができないんです。理不尽な状況だと思っていても当時の私は無力で、成す術はありませんでした。

カラーギャングをやっていた先輩達には地元の部落にルーツを持つ人が多くて……彼らはどこかに憎しみを抱えていました。「俺らの先祖は食事の配給の時にお皿をもらえなかった」「『手を出せ、部落のやつにやる皿なんてない』と言われた」とか、そういった差別の記憶を強く伝承しているんです。

裏社会で生きて手を汚さざるをえなかった先輩の中には、学歴を積んで弁護士を目指した人もいました。彼は「俺はこの街で唯一の公務員になって現状を変えるんだ」と言っていたのですが、結局捕まってしまいました。彼の果たされなかった想いは、私の中にずっと残されています。

そういった経験の中で、差別は差別を生み出すのだと知りました。差別された経験が強さへの執念になり、弱者への嫌悪になるような、そういう悪循環があるんです。私を率先していじめていた人達の中にもそういった屈折を感じました。逆に、ひどい状況だからこそ人格者になった人もいます。

今は多少減ってきましたが、部落の地域の運動会に参加したって言うと親がいい顔しなかったり、先生に「最近どこの先輩と遊んでるの」って聞かれて「向こう側の先輩と遊んでるよ」って言ったら「ダメよ!」と言われたこともありました。「なんで」って聞いても答えられない。「年の離れてる男の人と遊ぶと怖いこともあるかもしれないから」とか言うんですけど、「でも今、向こう側の先輩としか言ってないよね? 男とも年が離れてるとも言ってないよね?」って。信頼していた人間のそういう一面を垣間見てしまう時、一番悲しくなります。差別が差別を生む負の連鎖を、声を上げる事で断ち切っていきたいんです。「私なんて……」と下を向いている人が、「私だって!」と奮い立つような音楽をしたいんです。

――椿さんは昨年末ニューアルバム「美咲紫」を出しました。どんな人に一番届けたいですか。

椿:人生が行き詰まってる人ですかね。結局生きるか死ぬかしか歌ってないので。言葉に救われる人って存在すると思うんです。

――椿さんのリリックに救われる人、すごくたくさんいると思います。ちなみに、今後もバトルは出られるんでしょうか。

椿:バトルは……そうですね、出ます。正直出たくないんですけど、まだやらなくちゃいけないことがあるので。

――最後に、生きづらさを抱えるリスナーに対して何かメッセージをお願いします。

椿:アルバムを聞けば分かると思います。本当はもっと言いたいことがたくさんあって、色々な問題について突っ込みたいんですけど、ラッパーである以上ラップの表現からかけ離れた社会的な動きをすると「曲で言えよ」とか「寒い」っていう見られ方をされるので。力をつけて、一番いいタイミングで一番言いたいことをぶちまけた作品を世に残したいと思います。
(聞き手・構成/巣矢倫理子)

1 2 3 4

「「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の“人生を使ったカウンター”」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。