銃乱射事件をサバイバルした高校生エマ・ゴンザレス、全米が注目するスター活動家に

文=堂本かおる
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テレビ出演とツイッターを武器に戦う

 MSD校の生徒で活発な活動を続けているのはエマだけではない。乱射事件の後、同校は2週間にわたって閉鎖されこともあり、志のある生徒たちはメディアにもひんぱんに登場した。共に12年生のデイヴィッド・ホグ、キャメロン・カスキーはとくに雄弁だ。

 ケーブルTV局、HBOの政治的なトークショー『Real Time’s Bill Maher』に登場したふたりは、ホワイトハウスから電話があったことを語った。大統領のトランプが先に挙げたタウンホール・ミーティングへの出席を拒否したため、デイヴィッドは「僕たちはトランプ大統領の声を聞く必要はありません。大統領こそ子供たちの叫びと、国家の叫びを聞く必要があるのです」と言って電話を切ったと言うのだ。

 デイヴィッドとキャメロンは、銃の完全撤廃は望んでいないとも言う。銃擁護派が擁護の根拠に使う米国憲法修正第2条「国民が武器を保持する権利は侵してはならない」を尊重しており、かつ父親がそれぞれ警官、元FBI職員であることもあり、銃の必要性は認めていると明確に語った。デイヴィッドの妹でMSD校9年生(14歳)のローレンもCNNなどに兄と共に出演し、主張を述べ続けている。

 同校8年生のサラ・チャドウィックは辛辣なユーモアのセンスを活かし、上記NRAのロシェ、フロリダ州の上院議員で前回の大統領選に出馬していたマルコ・ルビオなどをネタにキツいジョーク・ツイートをおこなっている。

「AR-15はマルコ・ルビオに名称を変えるべき。だって簡単に買えるから」

 ルビオ議員がNRAから多額の寄付金を受け取っていることを皮肉っているのだ。さらに心のこもらない追悼メッセージを発したトランプに向け、以下のツイートを発している。

「あんたみたいな金持ちのファッキン・シットからのお悔やみなんかいらない。友だちと先生は撃たれた。何人ものクラスメートが死んだ。お祈りの代わりに何かしろ。祈りは役に立たない。けれど銃規制は再発を防ぐ」

自己主張の訓練・褒める教育法・愛国心

 エマを含むMSD校の生徒たちがこれほどまでに活発な政治的、社会的運動をおこなう(おこなえる)には、いろいろな理由が重なりあっている。

 まず、アメリカでは幼児期から自己主張とパブリック・スピーキング(公の場での発言)を教え込む。「 “シャイ” は許されない?〜みんなの前で『好きなもの』を発表するアメリカの “Show and Tell”」に書いたように、クラスの前で発表をおこなう「Show & Tell」を幼稚園から始める。近年、日本でも「見せて、お話」としておこなわれているが、アメリカでは古くから続いている。したがって子供の親も含めて周囲の大人が意見の主張に躊躇せず、子供はそうした大人の様子を見、自然と吸収して育つ。

 また、「出る杭は打たれる」ことは少なく、学校でも家庭でも「個性」は尊重され、子供たちは先生や親から「あなたの●●なところは素晴らしい!」と褒めて育てられる。その延長として学生会長の選挙、卒業パーティ、プロムのクイーン&キングの選出などがおこなわれる際、候補者は得票のために自分の個性や得意分野を存分に喧伝する。MSD校の校長もエマが活躍するたびに、それを讃えるツイートをおこなっている。また、英語版ウィキペディアにはエマを始め、MSD校の主だった生徒のページがすでに作られているが、「職業:活動家、生徒」と、活動家であることが先に記されている。

 ただし、アメリカでも「他と違う」ことで阻害され、または虐められることは少なからずある。エマはバイセクシュアルを公言しており、MSD校の「ゲイ&ストレート・アライアンス」というグループのリーダーを務めている。LGBTQがマイノリティとしての問題を抱えていなければ、こうしたグループも結成されないことは言うまでもない。

 ちなみに乱射犯クルーズは養子だったが、昨年11月に養母が病死したことも乱射となんらかの関係があるのかもしれない。奇行のために友人はほとんどいなかったと伝えられているが、早い段階で適切なカウンセリングなどがあれば事態は防げたのではないかとも思える。

 エマはある科学プロジェクトのリーダーも兼任していた。アメリカの学校ではスポーツにせよ、文化活動にせよ、ひとつに絞る必要はなく、本人に興味があり、かつスケジュールの調整がつくのであれば複数の活動を同時におこなわせる。エマは乱射事件によって突如として活動家、またはリーダーとしての資質を発揮し始めたのではなく、過去にすでに訓練を積んでいたことになる。

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