裕福な家庭に育つ利点
MSD校のある地域が裕福であり、同校生徒の平均学力が高いことも加えておく必要があるだろう。一般的に地域もしくは家庭の経済力と子供の成績は比例する傾向にある。MSD校の多くの生徒は学歴と年収の高い親に育てられている。子供は就学以前から家庭内で親の教養や、親の職業に由来する知識を吸収して育つ。先に挙げたように、デイヴィッドやキャメロンが父親の職業を通して銃のあり方を定義できるのは、家庭内でそうした対話があることの証明だ。エマが高校生にしてバイセクシュアルであることを公言できるのも、家庭の理解と支援があってのことだろう。また、タウンホール・ミーティングでのNRAとのやり取りで分かるように、エマはディベートの訓練も受けているはずだ。
裕福な家庭では就学後も親から学力的な支援(低学年のうちは宿題を完璧に手伝ってもらえる、高学年になると社会問題についてのディスカッションなど)が続き、習い事やキャンプなどの課外活動、さらには留学なども経済的に問題なく体験させてもらえる。「ネヴァー・アゲイン・MSD」運動にしても、今は寄付金が集まっているようだが、当初は遠隔地に出向いてのデモなども各家庭が諸経費を出せるからこそ、実現していたはずだ。つまり、経済力と親の支援によって子供の経験値が上がるのである。また、学内に同様のバックグラウンドを持つ生徒が多くいることから生徒たちは相互理解と切磋琢磨もできるのである。
飛躍して聞こえるかもしれないが、アメリカ人の強い愛国心も作用している。自分にとってアメリカは「自分の国」であり、自国を向上させることは、自分自身の幸福を意味する。エマの両親はキューバからの移民でエマは二世だが、エマもまたアメリカ人なのだ。
ちなみにMSD校のすべての生徒が「ネヴァー・アゲイン・MSD」運動をおこなっているわけではない。乱射時、ロックダウンされた教室に2時間閉じ込められて命の危機に晒され、または友人の死を目の当たりにした生徒たちはカウンセリングに通っている。
首都D.C.でマーチ〜ジョージ・クルーニーが支援
銃規制法の甘いフロリダ州ではあるが、さすがに今回の乱射事件に基づき、州知事は早々に銃規制法強化を打ち出した。その一項目が、AR-15などアサルト・ライフルの販売対象年齢を18歳以上から21歳以上(米国の成人年齢)に引き上げることだ。
しかしトランプの提案を受け入れ、「教職員の武装」も盛り込んでいる。教師への射撃訓練を義務化するにしても、教師がAR-15乱射犯を射止めることはほぼ不可能だ。自分の学生時代の、もしくは自分の子供の「国語の先生」や「音楽の先生」、さらには「幼稚園の先生」を思い浮かべると分かる。彼らが突如、乱入し、大型銃を撃ちまくる人間に対応できるはずはない。今回、MSD校では同校配属の銃を携えた警官が、本来なら「校舎に突入し、犯人を射殺」するはずが「なにもしなかった」として非難され、辞任している。
「ネヴァー・アゲイン・MSD」の今後だが、まずはこの記事が掲載される前日の3月14日、乱射から1カ月目の日に「ウィメンズ・マーチ」のユース部門などと共同で「全米スクール・ウォークアウト」をおこなう。銃規制を求めると同時に、犠牲者17人への哀悼を表すために全米各地の学校で生徒と教職員が朝10時に教室を出て、17分間を外で過ごす。
3月24日には首都ワシントンD.C.での大々的な「The March for Our Lives」(私たちの命のためのマーチ)と銘打ったデモ行進を予定している。このデモには社会派として知られる俳優のジョージ・クルーニー、その妻で弁護士のアマル・クルーニー、メディアの大立者で次回大統領選への出馬も噂されているオプラ・ウィンフリー、社会的な作品も多く手掛けている映画監督のスティーヴン・スピルバーグなど著名人が多額の寄付を申し出ている。
未成年の生徒に「社会に対して声を上げる」動機とスキルがあり、それが認められるとメディアとセレブが支援に付く。いかにもアメリカ的図式ではある。だが大量の小学生が惨殺され、あどけない犠牲者の写真があれほど出回っても為せなかったサンディフック小学校乱射事件後の銃規制法強化が、今回は実現する可能性がある。
サンディフックを生き残った子供たちは、自力で声を上げるには幼すぎた。しかし、エマ・ゴンザレス、デイヴィッド・ホグ、キャメロン・カスキーなどMSD校12年生の生徒たちは6月に高校を卒業し、9月から大学生となる。以後はさらに活動の輪と規模を広げることになるだろう。生徒の中には銃規制法強化を遂行するために法や政治を専攻する者も出るはずだ。彼らは乱射の体験を決して忘れない。仮に今すぐの銃規制が無理でも、やがて法律家や政治家となり、今後、何年にもわたって闘い続けるだろう。
(堂本かおる)
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