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採点ばかりされる世界で「臆病」にならないための考え方 文月悠光×牧村朝子

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「臆病」を付けたり外したりする

文月:私の話ばかりしちゃっているんですが。

牧村:もっと聞きたい。『臆病な詩人、街へ出る。』を読まれた方って、さっきの服屋の話みたいに、反応が割れると思うんです。「めっちゃプルプルしてる、チワワみたいな人の生活」と思って読む人も、「八百屋に行くのにこんなに試されているって思う人がいるんだ」って人も、「私も、『こうありなさい』って重圧の中でずっと生きてきて、おとなになった。どうすれば脱することが出来るんだろう」って人もいると思うの。

文月:でも先ほどからの話の腰を折ってしまうようなんですが、子どもの頃の話とか、根っこの部分を探ることに、どこまで意味があるんだろう、ってよく疑問に思うんです。

牧村:ズドーン! 言うよね(笑)。

文月:言ってももう大人じゃないですか。自分で何でも決めていいし、怒る人もいない。何をしても自分の責任で自由なんだってことをジワジワ実感しながら、人は大人になっていく。そのことを実感しながら書いた一冊かなと思っていて。

牧村:幼少期は、大人に「あなたはこうしなければいけない」って手を掴まれて、正しい方角につれていかれる。けれどいつか成長して、その手を放すし放されるわけじゃないですか。そこでそのまま「そっちの方角に歩いていかないといけないんだ」ってなっていると絶対苦しくなる。だから自分の足で歩いていくことを一歩一歩覚えていくんですよね、人は。これはけっこう大変だと思うし、今でも戦っていらっしゃるんじゃないかな。

文月:そうですね。解決していないことや、未整理なことはたくさんあります。

牧村:この本は自己啓発本じゃないもんね。「こんな苦しみがあったけど、乗り越えました」って本じゃない。

文月:解決してないし、何をもって解決って言えるのかも難しい。そもそも「臆病な自分」を一つのパーソナリティとして前に出してる時点でね……。

牧村:「私コミュ障なんで」みたいな?

文月:でもそんなふうに弱みを盾にするのは嫌じゃないですか? それを始めた瞬間に、臆病な自分の外に出られなくなっちゃうと思うんです。枠を作っちゃうと、その枠を忠実に演じなければ、という観念が強くなっちゃうから、枠を作ること自体から撤退しなければいけない、というのがひとつの結論でもあります。

牧村:「しなければいけない」っていうのもまた息苦しくない? 「していい」って感じじゃない?

文月:都合よく「臆病」というタグをつけるときと、はずすときと。

牧村:そうそう。

文月:『百合のリアル』(星海社新書)に出てくる「荷物札」のお話と重なるかもしれません。つまり、自分の意思で好きなときに「臆病」というタグを使って、好きなときに外してみてもいいんじゃないか。もちろん臆病さに甘えてはいけないとは思いますが、「自分がどうしても苦しく感じてしまうんです」ってことがあるのだったら、タグを使って人に伝えるのは悪いことじゃないのでは、と。

牧村:そうだと思う。

通りすがりの男性に「ブス」と言われた

文月:この本の後半で、恋人との別れを書いているエピソードがあります。「付き合っている人に対しても、自分の価値を試されているような感覚があって怖くなっちゃうんだよね」って私が話したときに、友人が「試されるんじゃなくて、相手に認めてもらえるって捉える人もいるんじゃない」と言ってくれて。そのとき、あ、なるほど! って。相手に認めてもらうという視点がなかったから、すごく新鮮だったんですよね。

自分は何でそういう発想をしなかったんだろうとも感じたし、確かに場面によって「試されている」と緊張しているときと、これはきっと認めてもらえるって自信を持って行動できるときと、2人の自分がいるなって気がついたんですよ。

牧村さんとお互いに聞きたいことを事前にメールでやりとりしたときに、私は「牧村さんはどういうときに試される恐れを感じますか? 逆に前向きに挑戦できる事柄があれば教えてほしい」と書きました。試される感覚ってどうです? あります?

牧村:ないよね。「野郎ふんどし屋」だったらあるかもしれないけど。

文月:たとえば誰かとコミュニケーション取るとか、仕事の場面、テレビに出るとか、今のように人前でしゃべるとか…

牧村:私は、芸能の仕事をしているので、審査員がいる場所に仕事でよく行っていたんですね。22歳のときから始めたわけですけど、芸能事務所に入ると、オーディションいっぱい受けるわけですよ。横長のテーブルに偉そうなスーツの人たちが34人くらい座って、私のことを見ていて、手元のメモに何かを書いてる。1点、2点、3点みたいな審査員札的なものを持っているのが見えるようで。

本当にひどい目にあって。ポーズして立っている私を目の前でジロジロ見て、「かわいくない?」「いや、そうでもないでしょ」みたいなことを言ってきたり。私、彫刻みたいな扱いだった。あと、「面白くない」「ブス」「君程度の子は全然いる」「この歳で、この芸歴で」とか。最初はすごい落ち込んだの。でもだんだん悔しくなってきて、それが爆発したのが、四谷の新宿通りの路上のことだったんですよね。

文月:めちゃめちゃ具体的ですね(笑)。

牧村:夜に、ヘッドフォンをしてすっぴんで歩いていたら、すれ違った知らない男の人が「ブス」って言ったんですよ。

文月:おー。

牧村:「おー」って思って。ヘッドフォンしてたけど、音楽を聞いてなかったんで、聞こえてたんです。「すみませーん、いまブスって聞こえたんですけど、おっしゃいました? それ私にですか?」ってその人に言って。

文月:おー、かっこいい。

牧村:そしたらなんか電話してるふりをし始めて(笑)。

文月:しょぼい…

牧村:しょぼい。諦めないで「いや、鳴っていないですよね。ちゃんと話してもらえます? なんでそんなこと言っちゃったんですか」って。

文月:むこうも一人?

牧村:そう。「そんなイライラしちゃうようなことがあって、道端の人にブスって言わないとやっていられないような何かがあったなら、私が聞きますから話してください」って新宿通りを300メートルぐらい。

文月:かっこいいー。

牧村:そしたら、どうなったと思う? その人、「付きまといです。通報しますよ」って言ったんですよ! 「お前ちょっと今の状況、交番にいってどっちが悪いか警察に判断してもらってみる!?」って思ったけど、言わなくて。「すみませんね、しつこくしちゃって」「でも私、本当に言ってほしかったんですよ」って別れたんですよ。最後に「かわいいわね、あんた」って(笑)。

文月:なるほどー。

牧村:そのとき、「生きていく上で、審査員みたいな目つきの人たちに採点されることはしょうがないんだ」って思った。私の周りの人たちはみんな札を持っている。採点しにきてる。でもそればっかりだと、私は「ああ、何点つけられるんだろう。試されてる」って臆病になるしかないじゃん。だから、わたしは総合審査員長になろうと思ったの。

文月:おお。

牧村:0点、1点、2点、7点、10点、1点、0点…総合点100点です!ってやろうと思ったの。みんないろいろ言うけど、自分が何者であるか、自分がどんな風に生きているのか、自分に対する総合点を最後につけるのは自分だぞって。その新宿通り事件があってから、楽になったし、オーディションでもちゃんと振る舞えるようになったかな。

文月:自分自身の総合点を自分でつける。すごくいいことを聞いた気がします。

牧村:でしょ? 使っていいよ(笑)。

文月:私はオーディションみたいなシビアに戦わされる場に行くことは少ないですが、みんなが見えない点数札を握っているんじゃないかって感覚はすごくあります。相手と会っている間の、自分の人生全体ではごくごく一瞬の時間に、相手にとっての最高点を稼ぎ出さなきゃいけない、という緊張感。

牧村:毎日バイオリンの発表会。

文月:でも自分の人生とか生き方、過ごし方を見守っているのは、自分自身でしかない。自分が総合点を出してあげられるのが本当は一番フェアだし、精神的にも健やかだなって思いました。

牧村:本当にそうなの。24時間ずっと自分と一緒にいるのは自分だし、一番長い時間自分をみて、自分を判断しているのは自分だからね。トイレにいるときまでも自分と一緒にいるのは自分だけ。

文月:すごく良いことを聞きました。私はモノを書いている期間は家にこもりますし、今回のように本を出したりすると、人前に出る機会が多くなる。すると、日常とのギャップが大きすぎて、どうしても緊張感が強くなってしまうんですね。人前に出ない期間も、総合点を上げるための、自分が惨めにならないための工夫をしていこう、って今思いました。

牧村:うーん……いま私が「自分で総合点をつければいい」って話を、文月さんは「いい総合点を自分につけられるように努力しなければいけない」ってまとめたような(笑)。

文月:やばいやばい、なかなか抜け出せないようです。

牧村:でもしょうがないよね。そんな風に街を出ながら、冒険は続いていくんだよね。

文月:はい、その通りだと思います。

(構成・カネコアキラ)

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