『失恋ショコラティエ』が描いていた、女性が内面化している「呪い」について

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 今年のバレンタイン・ホワイトデーはいかがお過ごしだったでしょうか。バレンタインは「好きな人に告白する日」「女性が男性にチョコを渡す日」というイメージが強いイベントですが、今年はチョコレートブランドGODIVAの「義理チョコをやめよう」という広告が話題になり議論が起きました。

 私はチョコレートが大好きで、各地の有名チョコレートがデパートに並ぶこの時期を楽しみにしています。なので「バレンタインが広い意味で好きな人とおいしいチョコを食べる日」「ホワイトデーがなくなって、男女問わずあげたい人にチョコをプレゼントする日」になるといいなぁと思っています。

 ちゃんとしたチョコレートってものすごく高くて贅沢品。それにもかかわらず私がチョコレートにハマるきっかけになったのが、漫画『失恋ショコラティエ』(小学館)でした。今回はその名のとおり恋愛とチョコレートを中心に人間模様や生き方を描く同作をご紹介します。コミックは全9巻、2014年冬にフジテレビ系の「月9」枠でドラマ化もされ話題を集めました。

 水城せとな作品はサラッとした洋風のキャラの顔立ちが特徴で、美しく繊細な絵柄で人間の心理を深く巧みに描いているので、私は大好きです。自分の心を現した姿になる不思議な授業に参加する『放課後保健室』(秋田書店)は伏線の張り方が見事で男女ともに楽しめる完成度の高い名作ですし、人の脳内会議を擬人化して描いた『脳内ポイズンベリー』(集英社)も映画化されています。ほかにも吸血鬼と同居する『黒薔薇アリス』(秋田書店)など、決してきれいではないリアルな心情を描きながらもファンタジー要素が入ることが多いため、少し変わった世界観が持ち味となっています。

女性たちが抱える問題と、決断

 その中でこの『失恋ショコラティエ』は、作者も「初めて普通の話が書けた」とコメントしているように、めずらしく特別な仕掛けがありません。主人公・小動爽太(こゆるぎ そうた)が高校時代にひと目ぼれした憧れの先輩・サエコさんと努力の末交際し、フラれたのちサエコさんの好きなチョコレートを作ろうとショコラティエになり、想い人のサエコさんが結婚した後もチョコレートを作り、お客さんとして来るサエコさんへ片想いを続けるなかでの、人間模様を描いた物語です。

「えっ! 相手が結婚したあとに片想いを続けるの?」と思う人も多いと思います。登場人物たちはみんなそれぞれ問題や悩みを抱えており、倫理的な人間というわけではありません。だから彼らの恋愛も、きれいごとばかりではありません

「恋はアートじゃない。人生そのもの、過酷でドロドロに汚れるものだ」
「正も誤もないこれが恋だ」

というセリフが作品にでてきますが、正しくはいられない、むしろ「正しい」「常識」ってなんなんだろう。そう葛藤しながらその中で生きている登場人物たち。人生はきれいにはいかない。その中での人々の複雑な心情や決断が描かれます。

 爽太の恋や仕事が話の中心になりつつも、登場する4人の女性キャラクターや彼女らの背景は、現代を生きる女性の価値観や悩みをそれぞれ映し出している点が興味深く、作品の深みになっていてます。サエコさん以外の女性陣はみんなそれぞれ自己肯定感が低く、それが問題につながっていきます。

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