
向き合います。更年期世代の生と性
空前の膣ケアブームがやってきた、と言ってもいいのではないだろうか。40、50代向けの雑誌やwebサイトはどこもこぞって「膣周りのケアをしましょう」と唱え始めている。
私もメノポーズカウンセラーの端くれとして、40代に入り女性ホルモンであるエストロゲンが減少することで、膣周りに様々な変化が訪れることは知っている。たとえば、外陰部のかゆみやヒリヒリする痛み、匂いの変化。また、膣の中の膣壁が薄くなり少しの刺激で出血してしまうことがあることや膣萎縮、そして性交痛……更年期世代になると、これまでにない症状に悩まされる人が多いのである(むろん全員にではない)。
このあたりのお話をプロに詳しく聞いてみたい――。そう考え、今回は性交痛に詳しいことで知られる潤滑ゼリーを輸入・販売されている小林ひろみさんからお話をうかがうことにした。小林さんはメノポーズカウンセラーでもあり、また女性の健康とワーク・ライフ・バランス推進員でもある。

小林ひろみさん
小林さんは2008年よりアメリカの潤滑ゼリー「アイディルーブ」の輸入販売をはじめる。自身も若いころから性交痛に悩まされ潤滑ゼリーで解放されたこともあり創業以来、性の健康に関連するセミナー、学会に多数参加。性交時の自然の潤いは女性ホルモンと深く関係していることから専門知識を得るため2014年に更年期のメノポーズカウンセラーを取得。また潤滑ゼリーは成分がとても重要なことから化粧品成分検定1級を取得している。
これまで感じたことのないような不快感が起きることも
――最近のこの膣周りケアブーム、すごくないですか? 「膣ケアしないと、キラキラした40、50代を過ごせないわよ!」的文言が多いようなのが少し気になりますが……。
「膣周りをケアしないと女じゃない! みたいな流れになるのはたしかに心配です。だいたい、更年期世代で強く更年期症状が出ている人って、体調が安定しないわけですから、毎日をなんとか終えるだけで精一杯なんですよ。そういう状態のときにケアは必須的な記事を読むと、『そんなこともできてない私って駄目なのかな……』と落ち込んじゃう恐れもありますから」
――私もそこは気になるところです。ただ、更年期で外陰部や膣にこれまで感じたことのないような不快感を覚える人が増えるのは事実ではありますよね。
「女性ホルモンであるエストロゲンは、皮膚や粘膜の潤いや弾力を保つ役割をしているんですね。エストロゲンが分泌されることで、膣や外陰部の潤いが保たれ、雑菌が繁殖しにくいpH値が維持されます」
――更年期に入りエストロゲンの減少が始まると、膣や外陰部の潤いも低下するんですね。
「はい。そうすると、乾燥によるかゆみやヒリヒリする痛みなど、デリケートゾーンに不快感を覚える症状がでてきます。また、pH値のバランスが崩れて雑菌も繁殖しやすくなり、それが匂いの変化にもつながります」
――更年期といえば、ホットフラシュとイライラ。こういった症状ばかりが注目されがちですが……。
「最近は、薬局や婦人科などで、更年期について書かれたパンフレットがよく置いてありますよね? あの中にはちゃんとデリケートゾーンの不快感についても書かれているんですけど……なぜかこれまで語られることが少なかったようです」
――私たちよりも上の世代はネットもありませんし、情報が少なかった。かゆみや痛みが出たときに不安だったでしょうね。
「いまも、更年期にそういう状態になることがある、ということを知らない人は少なくないと思います。突然の激しいかゆみに驚いて『もしかして性病?』と病院に駆け込む人も多いらしいですよ。久しく性行為をしていなくても」
――なんらかの菌が潜伏していて、今突然に発症した……と想像してしまうんでしょうか。そういう勘違いを防ぐためにも、更年期世代には膣や外陰部になんらかの違和感や不快感を覚える人もいる、ということを世間に広めていくというのは大切ですよね。
「知っておくと慌てなくてもすみますから。たとえば外陰部にかゆみや乾燥がある場合は、婦人科に行ってHRT(ホルモン補充療法)でホルモンを身体に入れることで収まる場合もあります」
――かゆい=皮膚科に行く。それで治るなら問題ないですけど、治らない場合は婦人科に行くという選択もあるよ、と。
「はい。HRT以外にも保険適用外ですが最近は膣レーザーという施術もありますよ。主に膣の乾燥が進行して膣や外陰部の萎縮してしまっている状態を改善することを目的とした治療で、レーザーを照射することで膣や外陰部の不快感の改善に高い効果があるようです」