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性教育で「避妊」「中絶」を取り扱うことは不適切? 15年前と変わらぬ都議と東京都教育委員会

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Thinstock/Photo by Oko_SwanOmurphy

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 316日に開かれた東京都議会文教委員会で、自民党の古賀俊昭都議が、足立区の区立中学校で行われた性教育の授業が学習指導要領にそぐわないものだとして問題を指摘、それを受け東京都教育委員会(以下、都教委)が足立区の教育委員会に指導することが、朝日新聞の報道によって明らかになった(性教育授業を都議が問題視、都教委指導へ 区教委は反論)。

 朝日新聞の別の記事によれば、足立区の区立中学校が35日に行った中学3年生を対象にした授業では、高校生になると中絶件数が急増すること、コンドームは性感染症を防ぐことができるか避妊率は9割を切ることなどを伝えた上で、「思いがけない妊娠をしないためには産み育てられる状況になるまで性交を避けること」を話したとある(中学の性教育に「不適切」 都教委、自民都議指受け指導へ 区教委「ニーズに合う」

 また、区立中学校が授業をする際に実施した事前アンケートでは、「高校生になったらセックスしてもよい」と答えた生徒が44%いたようだ。また、厚生労働省「平成28年度衛生行政報告例の概況」によれば、平成28年度の人工妊娠中絶件数は168,015件で、そのうち、20代未満は14,666件、15歳未満は220件ある(ちなみに、今回問題となった区立中学校のある東京都の場合、各都道府県別の15歳未満の人工妊娠中絶件数で6番目に多い。15歳未満の人工妊娠中絶件数で最も多いのは大阪府の24件)。中学生にとって、性交および妊娠、人工妊娠中絶は他人事ではないことが伺える。

15年前も性教育批判をしていた古賀都議

 今回、区立中学校で行われた性教育は問題があると指摘した古賀都議は、2003年に起きた七生養護学校事件にも関わっていた人物だ。

 七尾養護学校事件とは、200372日に土屋敬之都議が、東京都日野市の都立七生養護学校(現在は都立七生特別支援学校)で行われていた性教育を問題視する質問を都議会で行ったことをきっかけに起きた事件だ。質問から2日後の74日に、土屋都議や古賀都議が同学校を視察し、教諭を非難。さらに都教委も、授業に使用されていた教材を没収、校長への懲戒処分や教員への厳重注意処分を下している。

 元校長は処分の取り消しを求め2008225日に都教委を提訴。20131128日に最終的な判決が下り、東京都と古賀都議を含む3名は敗訴している。判決では、学習指導要領は一言一句に拘束力を有することは困難であり、教育実践者に広い裁量が委ねられている、ともされていた。

 こうした判決が下されているのにも関わらず、古賀都議や都教委の性教育に対する態度は、七生養護学校事件から15年後たったいまも変わらないようだ。

「妊娠の経過」は扱わない学習指導要領

 今回、都教委が問題としたのは、授業の際に「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった言葉を使った点にある。

 中学校の「保健体育」の学習指導要領には、「生殖に関わる機能の成熟」として以下のように定められている。

「思春期には,下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの働きにより生殖器の発育とともに生殖機能が発達し,男子では射精,女子では月経が見られ,妊娠が可能となることを理解できるようにする。また,身体的な成熟に伴う性的な発達に対応し,個人差はあるものの,性衝動が生じたり,異性への関心などが高まったりすることなどから,異性の尊重,性情報への対処など性に関する適切な態度や行動の選択が必要となることを理解できるようにする。なお,指導に当たっては,発達の段階を踏まえること,学校全体で共通理解を図ること,保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である」

 さらに学習指導要領には、この内容の取り扱い方として「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から,受精・妊娠を取り扱うものとし,妊娠の経過は取り扱わないものとする」とも定められている。つまり「男子では射精,女子では月経が見られ,妊娠が可能となることを理解できるようにする」が、「妊娠の経過」である「性交」は取り扱わず、「避妊」「人工妊娠中絶」も指導内容に含まれていない。

 早期の性教育を反対する人びとの中には、「性教育を行うことで、性交に関心を抱く可能性がある」という指摘をする人もいる。しかし、国連が発表している「International Technical Guidance on Sexuality Education」で、若者に対して年齢や文化に応じた科学的に正確な知識を提供する性教育の重要性が記されているように、正確な性教育はむしろリスクある性行動を減少させる効果がある。「妊娠が可能となること」を理解させるだけで、都教委が問題とした「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった言葉の使用を禁止するような性教育は、不十分ではないだろうか。

問題の多い「性教育」

 学習指導要領の性教育についてはその他にも問題がある(以下、黒字強調は筆者による)。

「個人差はあるものの,性衝動が生じたり,異性への関心などが高まったりすることなどから,異性の尊重,性情報への対処など性に関する適切な態度や行動の選択が必要となることを理解できるようにする」

 また小学校の学習指導要領の、「保健」の項目では、「体は,思春期になると次第に大人の体に近づき,体つきが変わったり,初経,精通などが起こったりすること。また,異性への関心が芽生えること」とある。学習指導解説書でもやはり、「思春期には,初経,精通,変声,発毛が起こり,また,異性への関心も芽生えることについて理解できるようにする。さらに,これらは,個人によって早い遅いがあるもののだれにでも起こる,大人の体に近づく現象であることを理解できるようにする」とある。

 ちなみに「道徳」の学習指導解説書でも「第二次性徴期に入るため,心身の発達には個人差があるものの,異性に対する関心が強まり,これまでとは異なった感情を抱くようになる。このことは自然な成長の姿である」と書かれている。

 小学校・中学校の学習指導要領の時点で、異性愛以外の性的指向がいっさい想定されていないのだ(詳しくは、遠藤まめたさん記事を参照)

 山口智美さんは、20年前に起きたフェミニズムに対するバックラッシュと、現在フェミニズムや性的マイノリティを攻撃する勢力は変わらないことを指摘していた(フェミニズム・性的マイノリティを攻撃する保守勢力は、20年前から変わらない)。今回の古賀都議、都教委の対応は、そのことを顕著にあらわす一例になっているのではないだろうか。

(※誤表記がありましたため修正いたしました:2018年3月27日)

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性教育裁判―七生養護学校事件が残したもの (岩波ブックレット)