
Emma González twitterより
3月24日の土曜日、首都ワシントンD.C.にて銃規制法を求める大規模なマーチ「March For Our Lives」がおこなわれた。主宰者は、2月14日にフロリダ州パークランドの高校で起きた乱射事件を生き残り、#NeverAgain ムーヴメントを巻き起こしたティーンエイジャーたちだ。
主宰者側によるマーチ参加人数は80万人(地元警察発表は50万人)。D.C.だけでなく全米450カ所以上でおこなわれ、全米の参加者総数は少なくとも120万人と見積もられている。運動に賛同するセレブ――アリアナ・グランデ、マイリー・サイラス、デミ・ロヴァート、コモン、ジェニファー・ハドソン(*)ほか――がパフォーマンス、またはスピーチをおこなった。
(*)ジェニファー・ハドソンの母、兄、当時7歳の甥は、2008年に家族により射殺されている
2月14日ヴァレンタイン・デイに、フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で乱射事件が発生した。同校の元生徒(19歳)がAR-15と呼ばれるアサルト・ライフルを乱射し、生徒14人と教職員3人の計17人が死亡した事件だ。
事件は凄惨を極めたが、同校の生徒たちは事件直後に立ち上がり、銃規制法を求める活動家となった。とくにエマ・ゴンザレス(18歳)は類まれな聡明さ、意志の強さ、行動力、フレンドリーさとユーモアを兼ね備え、さらに本人が言うようにシェイブド・ヘッド(剃髪)の強い印象もあり、またたく間に全米に名を知られる存在となった。
エマとともに運動を始めた他の生徒たち、とくにジャーナリスト志望のデイヴィッド・ホグ(17歳)も、今や連日メディアに登場し、鋭い舌鋒を発揮する活躍振りだ。
参照:『銃乱射事件をサバイバルした高校生エマ・ゴンザレス、全米が注目するスター活動家に』
犠牲者は「数値」ではない
アメリカ合衆国国会議事堂を背にする場所に設置された特設ステージでは、何人もの10代の生徒たちがスピーチをおこなった。もっとも聴衆を惹き付けたのは、やはりエマだろう。
「AR-15による6分20秒、私の友だちカーメンは、もう二度とピアノの練習について私に文句を言うことはありません。
アーロン・フェイスは、もう二度とキーラを “ミス・サンシャイン” とは呼びません。
アレックス・シャクターは、もう二度と弟のライアンと一緒に登校することはありません。
スコット・ベイゲルは、もう二度とキャンプでキャメロンに冗談を言うことはありません。
ヘレナ・ラムゼイは、もう二度と放課後にマックスとつるむことはありません。
ジーナ・モンタルトは、もう二度とランチタイムに友だちのリアムに手を振ることはありません。
ホアキン・オリヴァーは、もう二度とサムかディランとバスケをすることはありません。
アライナ・ペティはもう二度と。カーラ・ログランはもう二度と。クリス・ヒクソンはもう二度と。ルーク・ホイヤーはもう二度と。マーティン・デュークはもう二度と。ピーター・ワンはもう二度と。アリサ・アルハデフはもう二度と。ジェイミー・グッテンバーグはもう二度と。ミドゥ・ポラックはもう二度と。」
エマはここで言葉を止め、涙を流しながら聴衆を見つめ続けた。数分の沈黙ののち、エマは再び語り始めた。
「私が壇上に立ってから6分20秒経ちます。乱射犯は銃撃を止め、ライフルを捨て、逃げる生徒たちに紛れ、逮捕されるまでの1時間、自由に歩き回ります。
あなたの命のための戦いを。他の誰かがあなたのために戦うことになる前に。」
高校生の知識・思考・行動力
エマのスピーチは犠牲者が「17人」という紙面の統計値ではないことを示した。皆、2月14日の午後まではごく普通に生きていた高校生と教職員だった。その普通の暮らしが、AR-15による6分20秒によって永遠に奪われてしまったのだ。さらに、エマも含めて生き残った3,000人の在校生全員が、こころに一生消えることのない傷を負ってしまった。
これがエマと友人たちが立ち上がった理由だ。犠牲者と自分たちが負ってしまった癒えることのない傷を、全米のほかの10代たちが負うことを阻止したいのだ。エマは銃規制運動をおこなうのは「選択ではない」と言った。事件直後の演説が全米放映され、「もう以前の自分ではなくなった」と言い、活動家として全米の10代を率い、社会に変革を起こすことが自分に課せられた使命だと考えている。
しかし、銃擁護派や共和党の政治家からは激しい抵抗が起きている。エマを「スキンヘッドのレズビアン」と呼び、デイヴッドの顔をヒットラーにコラージュするなど稚拙な個人攻撃もあるが、アイオワ州の下院議員スティーヴ・キングに至っては、政治家としてあるまじき発言をおこなっている。
「自分がまだ10代で、21歳になるまで銃を持つべきではないと思うなら、なぜ21歳以下で投票するんだ?」
米国では21歳で成人だが、投票権は18 歳で得る。多くの州で18歳から銃を購入できることから、エマたちが銃の購入年齢を21歳に引き上げようと訴えていることへの反発だ。
エマと友人たちは、こうした批判、個人攻撃、脅迫にもひるまず、活動を続けている。単に「銃を失くせ!」と叫んでいるのではない。銃の所持を保証する米国憲法修正第二条を熟知し、ジャーナリストからの質問に互角に答えるだけの知識と思考を蓄えている。また、大規模なデモを成功させる実行力をも見せつけた。
現在、エマたちには以前から存在するアンチ銃団体、ウィメンズマーチ、大手広告代理店などがバックアップとして付いている。デモの許可取得や大量の物資や人員の配送手配、セレブと一般市民からの多額の寄付金の管理などは、未成年では法的に不可能なのだ。また、経験豊富な団体からの有効なアドバイスも受けているだろう。こうしたことから銃擁護派は「エマたちはあやつられている」と揶揄する。しかし、エマと仲間たちは、支援は受けても支配はされないことを宣言している。
銃規制に賛同する大人たちは、「10代とは思えない」エマやデイヴィッドの凛とした姿と行動力に目を見張り、「がんばって!」と声援を送る。だが、エマの母親は心配している。CBS『60 Minutes』のインタビューで、「エマは工作用の木材とガムテープで作った翼でビルから飛び降りたようなもの。私と夫は安全ネットを持って、エマの横を伴走しているようなもの」と語っている。母親にとってのエマは、まだ18歳の娘なのだ。どれほど強く見えても、10代特有の内面のもろさを母親は知っているのだろう。
だが、そんな10代の少女・少年たちに率いてもらわねばならないほどに、アメリカの銃と、銃にまつわる政治のあり方は蝕まれている。
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