社会

マーチ・フォー・アワ・ライヴス〜80万人のデモ、声を上げる場を得られなかった若者たち

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銃で殺される黒人、自殺する白人

 乱射事件直後から始まったエマたちの活動を見て、アメリカの将来に明るい光が射したように感じると同時に、ひとつの懸念が湧き上がった。銃犯罪にまつわる地域・人種・所得の差が語られず、都市部の貧しいマイノリティ地区が置き去りになることだった。

 乱射が起きたフロリダ州パークランドは住人の年収中央帯が13,000ドル(1,300万円)と、非常に裕福な郊外のゲーテッド・コミュニティ(フェンスなどで囲われ、住人以外は入れない住宅地)だ。『銃乱射事件をサバイバルした高校生エマ・ゴンザレス、全米が注目するスター活動家に』の3ページ目に書いたように、裕福な地区では子供の学力が高く、親の社会的地位の影響もあり、発言力も高くなる。こうした地区は治安がよく、銃犯罪はめったに起こらない。

 一方で、伝統としての銃文化があり、銃の購入規制も緩やかなことから多くの住人が合法的に複数の銃を所持している。ところが銃購入の際のバックグラウンドチェックがおざなりなことから、精神疾患者も銃を購入できることが少なからずある。今回の乱射犯人もこのパターンに当てはまる。エマたちが銃購入時のバックグラウンドチェックの厳格化を求めている理由だ。

 都市の貧困地区はまったく異なる事情を持つ。ニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴなど大都市の多くは厳しい銃規制法があることから、合法的に銃を所持する住民は少ない。狩猟の文化も、親から子へと銃を受け継ぐ伝統もない。つまり犯罪者以外はほとんど銃を持っておらず、したがって乱射事件は起こりにくい。だが、貧困地区では低学歴と雇用における人種差別が重なり、就業率が低い。そのため、金銭目的の犯罪が多発する。犯罪者は銃規制法の甘い他州から流れてくる銃を闇市場で買い、犯罪に使う。

 こうした都市部貧困地区の住人が郊外での乱射事件の大々的な報道を見ると、「ここでは毎日、人が死んでるから、今年だけでもっとよね……」「リッチな白人地区の大事件は報道されるけれど、貧しいマイノリティ地区の連日の事件は誰も気にも掛けないし」といった反応になる。

 筆者は乱射1カ月後の3月14日に全米でおこなわれた「スクール・ウォークアウト」に参加した。朝10時に生徒たちが教室を出て、亡くなった17人の犠牲者のために17分を外で過ごしたのだ。

 参加したのはマンハッタンにある公立中学で、生徒の大半は黒人とラティーノ。教師の先導で学校の外に出たが、まだ中学生であることから周辺をマーチすることはさせず、学校の前に17分間、佇んだ。気温2度と寒い日であったこともあり、多くの生徒は内心「早く中に戻りたい」といった顔付きで、お互いにふざけあっていた。

 後日、同じ学校の6年生(中学初年)の授業を参観させてもらった。先生が「パークランドの乱射事件、または先日のウォークアウトについて何か発言したい人はいる?」と聞いた。CNNで知ったという乱射事件の詳細を語る少女、NRA(全米ライフル協会)の存在を知っている少年がおり、かつ「ウォークアウト時に皆がふざけあっていたのはよくない」という意見もあったが、全体的にはそれほど興味は無さそうな雰囲気だった。先生がスマートボードに今回の「マーチ・フォー・アワ・ライヴス」の公式サイトを写して説明し、サイトからダウンロードした、ポスター用の「アンチ銃の塗り絵」をして授業は終わった。

 先生によると、ウォークアウトへの参加を拒否し、教室に残った生徒もいたとのこと。パークランドには銃擁護派であることからウォークアウトやマーチに参加せず、自身の銃に対する考えをメディアで語った高校生がいるが、そうした確固たる理由があるわけではなく、単に面倒だった、もしくは「銃犯罪を見慣れている」ゆえに関心を持たなかった生徒たちだ。

 統計によると、黒人の子供が銃殺人の犠牲となる率は白人の子供の10倍となっている。

0~17歳の銃による死亡者数(10万人あたり)(2012~2014)
白人:殺人 – 0.35人 自殺 – 2.18人
黒人:殺人 – 3.49人 自殺 – 0.62人

American Academy of Pediatrics
http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2017/06/15/peds.2016-3486.figures-only

 実は、ウォークアウトの日に中学を出て駅前に向かうと、黒人とラティーノの高校生たちがマーチしている光景に出喰わした。中には議論をし、泣きながら「私たちはひとつにならなくちゃダメなの!」と訴えている女生徒もいた。彼らはかならずしも無関心なのではなく、それどころか自身が最大の犠牲者グループであることを十分すぎるほどに自覚している。ただ、これまでは声を上げる場を得られなかったのだ。

Everyday shootings

 マーチの前週、ディヴィッド・ホグはこの問題について発言した。

「乱射が低所得地区や黒人地区のような場所で起こっていれば、当事者がどれほど “上手に語っても” メディアは取り上げないだろう」「すべての人々の声に耳が傾けられるよう、我々は “白人の特権” を使わなければならない」

  アメリカの人種問題は非常に複雑かつ繊細であり、白人による「(黒人が)上手に語っても」「白人の特権」という言葉の選び方は適正ではなく、テイヴィッドに対して「傲慢だ」という声も出た。だが、デイヴィッドは宣言どおり、近年、銃犯罪が非常に深刻になっているシカゴの高校を訪れ、生徒たちと交流している。さらに、マーチに多数の黒人とラティーノの若者たち――銃暴力の犠牲者や遺族――を演説者として招いた。以下は、その演説の一部。

トレヴォン・ボズリー(19歳、シカゴ)

Everyday shootings are everyday problems!
(毎日起こる銃撃は、日常の問題だ!)

ガソリンスタンドに、映画館に、バス停に、教会に行く際に、さらには登下校の途中で撃たれるかもしれないことを恐れている若者たちのために話に来ました。

シカゴでは2006年以降、5,850人が撃たれて死に、2012年以降、16,000人以上が撃たれています。

※2006年、教会から帰宅しようとした兄が銃撃により死亡

ナオミ・ワドラー(11歳、ヴァージニア州)

わたしは今日ここに、全国紙の一面には載らないアフリカン・アメリカンの女の子たちの物語を代表して来ました。

わたしは銃暴力の犠牲者であるアフリカン・アメリカン女性を代表してここに来ました。

わたしと友だちはまだ11歳で、まだ小学生ですが、でも知っています、人生は平等ではないことを。そして善悪もわかっています。

わたしは、あとたった7年で投票できることも知っています。

※パークランドの犠牲者のひとりは、ナオミの母親の友人の娘

クリストファー・アンダーウッド(11歳、ニューヨーク)

兄は(頭を撃たれてから)14日間生き、15歳の誕生日に死にました。

ぼくは5歳でした。

死ぬことを心配したくはないです。算数と科学に集中して、友だちとバスケをしたいのです。ぼくは大人になる価値があると思いませんか?

アラヤ・イーストモンド(パークランドMSD高校乱射事件生存者)

イエス、私はパークランドの生存者で、MSD高校の生徒です。けれど以前はごく普通の黒人の女の子で、これからも黒人のままで、普通なままで、そして、私たち全員のために闘います。

※MSD校では少数派の黒人生徒

※以前にニューヨークでの銃撃事件で叔父を亡くしている

ヨランダ・リニー・キング(9歳、マーティン・ルーサー・キングJr.牧師の孫)

わたしのおじいさんは、自分の4人の子供が肌の色ではなく、人格で評価されることを夢見ました。

わたしは、もうたくさん!という夢を持っています。銃のない世界になるべきです。それだけ!

わたしの言葉を繰り返して!「言葉を拡散して!」「聞こえた?」「全米に!」「わたしたちは、素晴らしい世代に、なるよー!!」

※キング牧師は1968年に銃によって暗殺。今年4月4日は暗殺から50周年の記念日として各種のイベントが開催される

 こうした子供たちの声を聞くことによって、子供たちを守るために銃規制法を進め、同時に格差のない社会に作り変えていくことが、今、アメリカの大人に課された課題なのだと、改めて思い知らされたのだった。
(堂本かおる)

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