積極的な性教育は男子によりインパクトを与えるという前向きなデータ

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トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

 LGBTと教育に関する活動をしていると、ときどき「同性愛について学んだ子どもが同性愛者になったらどうするんだ」という意見を目にする。たとえば去年、学習指導要領に多様な性の記述を入れてほしいと文部科学省に要望していたとき、役所に寄せられたパブリックコメントには「そんな授業を受けたら子どもの性的指向が揺らいでしまう」というコピー&ペーストの内容がアンチ団体により1000通近くも送られていたのだった。

 かつて70年代にサンフランシスコではじめてゲイを公表して議員に当選したハーヴェイ・ミルクは、これらの批判に対し「それぐらいで子どもが同性愛者になるなら、ヘテロ(異性愛者)の親に育てられ、ヘテロの大人に囲まれ、ヘテロの教員に教わった自分がなんでゲイになったんだよ」と反論していたが、私もそのとき同じことを思った。っていうか、同性愛はそんなに魅力的なのか?

 これに似て「性教育について教えると子どもがフリーセックスに走ってしまう」という主張もある。同じく、そもそもフリーセックスがそんなに魅力的なのか? と問いかけたくなるが(人によるか?)。こういう珍説によって日本の性教育の伸びやかな実践が妨げられてきたのも事実である。2000年代に、創意工夫している現場の先生たちを萎縮させるバッシングがあって、日本の学習指導要領では中学生でもセックスについて扱わないことになっている。先日も足立区内の中学校が「避妊」などを扱ったのがけしからんと、自民党の都議が都教委を介して圧力をかけた(関連の署名サイトはこちら)。アンチ性教育の勢力はしぶとい。

 でも統計によれば、フリーセックスを憎むなら、むしろ性教育をきちんとやったほうがいいようだ。先日発売された『教科書にみる世界の性教育』(かもがわ出版)によれば、性教育の充実しているオランダでは子どもたちの初交年齢は近隣諸国よりも高く、性行動はより慎重であることが書かれている。この国は性教育アンチ派から見たらけしからんことに、中学生でコンドームやピル、LGBT、オーガズムなどを授業で扱っているが、それが子どもたちの自己決定能力を育てているのだ。ちなみに、ここまで懇切丁寧にけしからん授業をしておきながら、オランダの性的同意年齢は16歳である。日本のそれは13歳だ。日本のほうが野放しでハレンチではないか。何がけしからんのかわからなくなってきた。

 フィンランドの調査では、性教育は男子によりインパクトを与えることがわかっている。男子は女子よりも性知識の正答率が低いが、性教育の内容と方法の改善によって正答率が急速に高まるそうだ。男子の知識が向上すれば、女子の望まない妊娠だって減る。だれも悲しい思いをする人はいない。性教育をめぐってはいろんなレッテル貼りがされやすいが、すでにたくさんの前向きなデータがあることに、もっと注目していきたい。これらを元に議論をすると、実はフリーセックス反対派だって安心するんじゃないかと思うことも多い。まあ、他人がどんなセックスをしようが、その人たちの間で合意が取れていれば個人的には興味がないけれどな。

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