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荒木経惟の被写体を務めたKaoRi氏の告発 アラーキーの女性礼賛とは何だったのか

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Thinkstock/Photo by ArisSu

 世界的にも著名な写真家であるアラーキーこと荒木経惟氏(77)に、疑惑の目を向けざるを得ない。20012016年まで荒木氏の被写体モデルを務め“ミューズ”と呼ばれていたダンサーのKaoRi氏による「note」での告発は、大きなインパクトをもたらした。

▼note『その知識、本当に正しいですか?』

 KaoRi氏と荒木氏との関係はあくまでも「写真家とモデル」であり、恋人関係ではなかったという。しかし荒木氏はビジネスライクな行為を好まず、ワンマンで仕事を進めていったようだ。当初、KaoRi氏は写真を「撮られるだけ」で、撮られたものがどのように使われるか一切知らされず、初めてのヌード撮影でヘアメイク担当者に契約書などをかわさないのかと質問したところ「そういうのない」「日本ではそれが普通」という答えが返ってきたという。荒木氏に撮影された写真は事前報告もKaoRi氏の許諾を得ることもないまま写真集やDVDとしていくつも出版された。

 しかし海外の撮影では、撮影のたびにフォトグラファーと被写体が撮影同意書を交わし、撮影した写真を被写体が確認することも出来、作品の出版に際しても必ず同意書と内容確認を求められる。そのためKaoRi氏は荒木氏の撮影に戸惑いを覚えるが、しかし「それが普通」と言われてしまい強く言えなかった。巨匠アラーキーに対して萎縮するなというほうが無理だっただろう。

 さらにKaoRi氏の投稿によれば、撮影による拘束時間が増えても、対価として得られる報酬は多くはなかったという。生活費は別に稼がなければならなかったが、荒木氏は「それを乗り越えてこそいい表現ができる」という考え。そもそも契約書をかわしていないのなら、彼女の仕事に対する報酬という概念自体、荒木氏は持っていなかったのではないだろうか。それを「芸術のためだから」「下積みモデルだから」で許容はできないだろう。彼女はもはや“アラーキーのミューズ”として芸術界で認知されるモデルであり下積みモデルなどではなかったわけである。

 また、被写体の同意なき撮影によって撮られ、許諾なきまま公開されていく写真には過激なものも多く、KaoRi氏は嫌がらせやストーカー被害に悩まされるようになったという。心身に不調をきたし改善を求めても、荒木氏は無関心だったとKaoRi氏は綴る。荒木氏は自身の名前と行動が世間に与える影響によって、被写体であるKaoRi氏がどのように傷つくかを一切理解しようとしなかったようだ。20162月にKaoRi氏が環境改善を求めると、「有限会社アラーキーに対する名誉毀損と営業妨害に当たる行動を今後一切いたしません」という文書へのサインを強要されたという。KaoRi氏の訴えは自身にとって名誉毀損であり営業妨害、つまり自身に一点の非もないと荒木氏およびスタッフ陣は考えているのだろうか。同年からKaoRi氏は荒木氏の被写体になっていないが、今でも個展などでは彼女の写真が使われ続けている。

 荒木経惟氏の被写体モデルだった女性がこのような訴えをするのは、今回が初めてではない。昨年8月にはモデルで美術家の湯沢薫氏が、Facebook上で「19歳の頃に性的虐待を受けた」と告発している。「本当に恐ろしい経験」をしたという彼女は、事件後「精神病院に行かなければならない精神状態」になり、何度もセラピーを受け、モデル業を休業しなければならない状態になり、荒木氏を訴える気力もなかったという。「美術館やギャラリーのキュレーターに会う機会があるとき、私はできるだけ、必ずこの話をしてきました」ともあるが、であれば美術館関係者はその訴えを聞いてもスルーしてきたということになる。

 「女性」を撮り続けてきた荒木氏は、女性たちを礼賛していると公言している。あるインタビューでは「俺は本当に女の人に人生助けられてる」「女のほうが絶対物事をわかってるんだよ。だから男は女に従ってればいいんだ。だから俺はずっと、女の言うとおりに生きてるんだよ」と語っている。荒木氏の言う「女」に、KaoRi氏ら被写体は含まれていないのだろうか。あるいは、女性は何をしても許してくれる存在だという思い違いがそこにあったのか――。

 しかし荒木氏も、誰彼構わず、契約書ナシの許諾ナシで作品をリリースしているわけではあるまい。役者やタレントなど芸能事務所に所属する人物の撮影にあたっては、当然、仕上がった写真の使用可否について事務所チェックが必要だ。ただしその場合は荒木氏もひとりのクリエイターとして招かれた立場であり、クライアントから報酬を受け取る側。荒木氏自身が個人の作品として被写体を撮影する場合は、荒木氏がモデルにとってのクライアントとなり、契約をかわして報酬を支払う立場になるわけだが、そのことをどう認識していたのか。また、もともと電通マンだった荒木氏が契約の重要性を理解していないとも思えない。「私写真」であるからとの理由で、曖昧なまま済ませてきてしまったのだろうか。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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