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※この記事はメタモル出版ウェブサイトに掲載されていた成田祟信さんの連載「管理栄養士パパのみんなの食と健康の話」を再掲載したものです
「危険な食品」というと、どんな食べものが思い浮かぶでしょう。
インターネット上では、さまざまなものが「危険な食品」とされているようですが、特に有名なのが食品添加物(合成甘味料や保存料)、マーガリン、砂糖、牛乳でしょう。「食品添加物やマーガリン(トランス脂肪酸)は万病のもとになる」、「砂糖を摂ると低血糖症など様々な病気になり、キレやすい性格になる」、「牛乳はホルモン漬けなので健康に悪いうえ、日本人には消化吸収ができない」などと噂されているようです。
このような特定の食べものの危険性を強調する話は「有害論」といわれますが、特に子育て世代や健康に不安のある高齢者がターゲットになりやすく、あまり気にしすぎると、食生活の偏りや余計な出費を強いられるなどの問題が起こります。また、これをきっかけにおかしな健康法にはまってしまい、かえって健康を損なうケースもみられます。
確かに、過去には有害な食品添加物が使用されていたこともありますし、マーガリンも砂糖も牛乳も摂りすぎれば肥満を招き、生活習慣病の原因になるでしょう。しかし、それはあくまで摂り過ぎの場合であり、少し食べただけで身体をおかしくするような毒物ではありません。そんなことを言ったら、水でさえ一度に大量に摂れば危険です。量を無視して危険をあおるような話は、ほぼデマだと考えてよいでしょう。そもそも、砂糖でキレやすくなるとか、牛乳がホルモン漬けだとか消化吸収できないなどは、完全なデマです。
添加物や砂糖のように必要以上に有害視される食品がある一方で、本当に命に関わるような危険な食品があることは意外と知られていないのが実情です。
特に危険性が高いのが生肉で、刺身で食べるのはもちろん、加熱不十分な肉を食べた場合でも、腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、寄生虫などによる深刻な食中毒のリスクがあります。肉や生肉を触った箸を口にしただけでも食中毒になることがあるため、十分な注意が必要です。
厚生労働省も生肉を食べないよう注意喚起していますが、これに対して「自己責任で食べているのだから干渉しないでほしい」という意見があります。確かに自分にしか被害が及ばないのであればそうですが、肉の生食で起こる食中毒には周囲の人に感染するものがあるため、自己責任ではすみません。特に子どもや高齢者など体力が十分でない人が感染すると、死に至ることもあるのです。生食が認められていない肉の刺身は絶対に食べないようにしましょう。
なお、生食をしても問題が少ないのは馬肉と、衛生管理ができている調理場で表面を焼いて取り除いて刺身用に仕上げた牛肉など。でも、本当に衛生管理できているかどうかは不明なことが多く、基本的に生食にはリスクがあると考えてください。
また、ジャガイモの芽や青い部分に含まれるソラニンによる食中毒にも要注意。学校で栽培したジャガイモが原因の食中毒がほぼ毎年起こっています。「危険な食品」というと、なんとなく人工のものをイメージしがちですが、実際には天然や自然の中にも毒を含むものはたくさんあるのです。最近は、鶏肉に付着しているカンピロバクターによる食中毒が増えており、ギランバレー症候群のような重篤な後遺症が起こることが知られておりますので、身近な食品が原因となる食中毒には十分気をつけてください。食中毒については、この連載の第1回<お弁当と食中毒>(後日掲載予定)も参考にしてくださいね。
次に気をつけたいのが、窒息しやすい食品です。毎年公表されている死亡統計を見ると食品が原因の窒息事故数は、ここ10年程やや増加傾向で年間4000人以上と多くの方が亡くなっています。
高齢者の場合、特に危険なものとしては、お餅のような粘りの強いもの、こんにゃくやミニトマトのように噛みにくい食品が挙げられますが、パンやご飯などあまり危険だと思われていない食品による事故も多いことはもっと知られてほしいところです。高齢者の食事はある程度細かく切り分けて調理し、食事中には一口の量を少なくするよう声がけをしてくださいね。子どもの場合も同様ですが、少し違うのは、遊び食べや歩き食べをしていて、思いがけず食べものを飲み込んでしまい、喉につまらせてしまう事故も多いこと。ふざけながら食事をしてはいけないことを厳しく伝えてほしいと思います。
こうしてみていくと、食材の確認や調理の仕方などに注意すれば、特別に危険な食品などないことがわかるでしょう。むしろ、危険なのは「○○は危険」と特定の食品を遠ざけることです。たとえば、乳製品を危険だと思い込んでとらなければ、カルシウムが不足するかもしれません。カルシウムが不足しないよう小魚をたくさん食べるなど、他の特定の食品をとりすぎれば、今度は塩分などの他の成分の摂りすぎになるかもしれません。
また、「自然のものでなければダメ」という態度も同様に私たちの食の選択肢を狭めてしまうため、生活の質を低下させかねないのです。
というわけで、ありきたりな結論ですが、天然や人工にこだわらず、様々な食品をまんべんなく食べるようにしてくださいね。

成田祟信『新装版 管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)