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主人公は落ちぶれた馬。Netflix『ボージャック・ホースマン』の魅力は、人間臭さを「正義と悪」で切り分けないこと

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現代の女性を鋭く体現する登場人物も

 他にも、ダイアン・ヌーエンとプリンセス・キャロラインというキャラクターがいます。この2人の女性の生き様も、きっと共感できる部分が多いはずです。

 ダイアン・ヌーエンは30代のベトナム系アメリカ人で、ボージャックの自伝本のゴーストライターです。

 4人の兄よりあらゆる面で優秀だったせいか、家族から疎まれて育った彼女。独り立ちして家族と距離を置き清々としながらも、ボージャックと同様、「家族から褒められたい、認められたい」という思いを捨て切れずにいます。

 また、彼女はフェミニストで、おかしいと思うことにはしっかりNOを突きつけます。相手が権力者でも気にかけないため、しばしば世間からバッシングされたり、面倒に巻き込まれたりしていますが、「適当」に流すことは選びません。

 シーズン4では絡んでくる男性を一緒にいた女性が銃で追い払ってくれたことをきっかけに、ウェブメディアで「安心して街を歩くために、女性はマイ拳銃を持とう」と呼びかけ、大きな反響を得ます。しかし、それを受けて男性多数の州議会で「(何を考えているのか分からない)女性に銃を持たせると危ない」という意見が飛び交い、長年進まなかった銃規制がすんなり成立します。「この国が銃を愛する以上に女性を嫌っているだなんて」とダイアンが嘆く場面は印象的です。

 プリンセス・キャロラインはボージャックのエージェントで、いわゆる「バリキャリ」のタイプのアラフォー女性。ボージャックとは、恋人のような恋人でないような曖昧な関係でもあります。

 今のところ結婚する目処はありませんが、子どもを強く欲しています。仕事の合間を縫って婚活に勤しむものの、「自分と対等に接し、仕事を応援してくれる人と付き合いたい」という慎ましい願いを叶えてくれる男性になかなかめぐりあえません。

 仕事はサクサク回せる器用な彼女。でも、恋愛ではつかず離れずのボージャックに振り回されます。周りから彼を見放した方がいい、と言われても聞く耳を持たず、むしろダメ人間(馬?)の彼を再起させることが彼女のモチベーションになっているように思えます。

他作品では観られない「人間の両義性」を表現

 『ボージャック・ホースマン』の魅力は、1つの枠に押し込められない人間の性質を丁寧に描いている点です。

 キャロラインはボージャックがどんなに問題を起こしても見捨てない、情の深い部分がありますが、自分と共同して詐欺を働いた青年が逮捕されそうになると、あっさり見捨てて逃げてしまいます。

 私たちは、自分や誰かの矛盾した行動を責めがちですが、実際はキャロラインのようにその場で都合のいい態度を取ってしまうことだってあると思います。私は、良い役と悪役がはっきりしていたり、登場人物の性格がデフォルメされていたりする物語を観ると、自分はこんな「良い役」にはなれないと思ったり、デフォルメが難しい性質の人々をバッサリ切り捨てている感じがして、苦手です。だからこそ、場面によって正義の基準を使い分けるキャロラインの人間臭さを、肯定も否定もせずにそのまま描いている『ボージャック・ホースマン』は安心して観続けられています。

 また、社会問題や大衆の病理的な部分にザクザク切り込んでいる点も見所です。例えば、ゴシップ番組がセクシー路線で売り出した18歳の女性タレントをちやほやしますが、彼女が30歳になると、誕生日を迎えたことをわざわざ報じた上で、「話題になるかは疑問」とバカにします。そして若手の女性タレントに「今はイタいおばちゃん」とコメントさせるのです。このエピソードでは、多くのコンテンツでは場を和ませる冗談とされがちな年齢差別(エイジズム)を、ぼかさずに過酷に描いています。

 その他にも、アセクシャルを自認する青年が登場したり、女性タレントが中絶反対運動に対抗したり、『馬か騒ぎ』の子役が薬物中毒になったりと、日本の地上波の番組では取り上げるのが難しいトピックがたくさん出てきます。

 また、ハリウッドの著名人が多数出演しているところも魅力的です。ボージャックの声はウィル・アーネット、ダイアンの声はアリソン・ブリー、キャロラインはエイミー・セダリスが声を担当しています。また、ダニエル・ラドクリフ、ナオミ・ワッツや、ポール・マッカートニーといった大物が、カメオ出演しています。

 社会問題や暗い話も多いですが、テンポよく話が進み、出てくるジョークも面白いので肩の力を抜いて観られます。むしろ、そうしたシリアスなトピックを日常と切り離さずに織り込んでいるところが、魅力なのです。すでにシーズン4まで公開されています。仕事から帰ってから寝るまでの時間にちょこちょこ観るのも、休日に一気に観るのもおすすめします。
(北川アオニ)

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