「性を語ること」を考える際に読みたい3冊 エロいことば、女性向けポルノ、男性の自慰行為

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 今月14日からスタートした特集「性を語ること」。本稿では、森山至貴さんに本テーマを考える際にオススメしたい書籍をご紹介いただきました。

 取り上げられている書籍は、『性的なことば』(講談社現代新書)、『女はポルノを読む―女性の性欲とフェミニズム』(青弓社)、『セクシュアリティの歴史社会学』(勁草書房)の三冊。それぞれ「エロいことば」の語源や歴史を調べ上げた用語集、女性向けポルノグラフィ論、男性の自慰行為について書かれた、「性を語ること」に欠かせないテーマが取り扱われています。

特集「性を語ること」

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井上章一・斎藤光・澁谷知美・三橋順子(編)『性的なことば』講談社現代新書

 SNSでは「お疲れさまです」と「ご苦労さまです」のどちらが失礼なのかが喧しく議論され、広辞苑の改訂版出版がワイドショーで取り挙げられる。日本社会はいつだって日本の「ことば」を気にしている(おそらくいくぶんはナショナリスティックに)。けれども、性にかかわる言葉はいつも表立っては用いられず、それゆえ正面きってその語源や変遷を調べられることはない。お行儀のよい人なら目をそむけたくなるのかもしれないが、「エロいことば」も、まぎれもなく日本の「ことば」なのに。これは不公平ではないか?

 『性的なことば』は、辞書には載らないかもしれないけれどひっそりと(あるいは時に公然と)用いられる、性にまつわるさまざまな「ことば」の語源や歴史を、丁寧に調べあげた用語集である。よく知っている「ことば」の意外な語源や、そもそも聞いたことがない「ことば」などについて読むことは、未知の歴史に分け入るようなそれ自体とても楽しい読書体験となるはずだ。そして、そんな「ことば」を用いた人たちの性に関する想像力のたくましさや規範の強固さを想像することは、わたしたち自身の「エロさ」を省みる、なかなかによい機会にもなるはずである。シリーズ前書の『性の用語集』とあわせてどうぞ。

守如子『女はポルノを読む―女性の性欲とフェミニズム』青弓社

 フェミニズムは、男性が女性を所有物として扱うこと、言い換えれば男性による女性の「(性的)モノ化」を一貫して批判し続けている。そして、その議論において頻繁に言及されるのがポルノグラフィだ。男性が女性を性的なコンテンツとして消費する、これぞ「モノ化」の最たるものではないか。ポルノグラフィは撲滅すべきではないのか。だが、ここで「しかし」とつぶやくフェミニストもまた存在するのである。「女だってポルノグラフィ、読むよ」と。

 『女はポルノを読む』は、フェミニズムがポルノグラフィをどう評価してきたのかを整理した上で、女性向けポルノグラフィの成立史、その読者像、男性向けポルノグラフィとの差異について論じた、日本語で読める女性向けポルノグラフィ論の基本文献である。

 ここ数年の「女性向けAV」の静かな浸透をふまえれば、本書で扱うポルノグラフィがマンガに限定されていることはもしかしたら奇異に映るかもしれない。しかし、これは女性向けポルノグラフィをめぐる地殻変動の急速さを示すものにすぎない(本書が刊行された2010年当時は、今ほどに女性向けAVは存在していなかったし、また特定のAV男優に女性ファンがつく、といった事態は現在よりもっと少なかった)。もちろん、女性向けAVの一般化は、また新たなポルノグラフィ論を可能にするだろう。その展開の意味を見極めるためにも、「女にだって欲望がある」という主張の意義を、本書に立ち戻って何度でも確かめるべきである。

赤川学『セクシュアリティの歴史社会学』勁草書房

 まずはその厚さに驚いてほしい。この一冊まるまる、(男性の)オナニーの話である。日本社会がどのようにオナニー(マスターベーション)を意味づけてきたのか、その歴史を追った本書は、「猥談」に矮小化されがちな性の話題がスリリングで緻密な研究対象となることを、これ以上ないほど説得的に示してくれる。そしてそこから見えるのは、オナニーを、あるいは性を通して見えてくる、日本社会の大きな変化のありようである。

 「とはいえ所詮はオナニーの話だろう」と思っているそこのあなた、それは甘い。本書を読めば、オナニーをめぐる人々の観念どころか、「科学的な真理」とされた知識のありようすら現代のそれとは大きく異なることがわかるだろう。そしてそこから、私たちが知っていると思っているオナニーも、時代を経れば全く異なるものに変容する可能性に思い至るはずだ。「わかったつもり」でいるあなたこそ、本書の圧倒的な分析に触れてほしい。そして、自分が当たり前だと思っていることが当たり前でないことに気づく、その甘美な知的快楽を味わってほしい。

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