
『週刊新潮』の報道が事の発端(『週刊新潮 2018年4月19日号』(新潮社)より)
福田淳一財務事務次官のセクハラ疑惑問題が思わぬ方向に転び、騒然としている。今回は、問題発覚から辞任にいたるまでのこれまでの経緯を整理してお伝えしたい。
第一報は4月12日『週刊新潮』
事の発端は今月12日発売の『週刊新潮』(新潮社)の報道だ。『週刊新潮』は、福田次官によるセクハラの実態について、複数の女性記者たちからの証言や、セクハラ発言の詳細を掲載。これに対して麻生太郎財務相は、「(福田氏に)きちんと緊張感を持って対応をするようにと、訓戒を述べたということで十分だと思っている」「(福田氏に)十分な反省もあったと思っているので、それ以上、聞くつもりはない」などと発言しており、この時点では財務省として詳しく調査は行わないとしていた。
翌13日午前にも麻生氏は、「事実だとするなら、それはセクハラという意味ではアウトだ」「あの種の話はいまの時代、明らかにセクハラと言われる対象」と述べる一方で、「本人の長い間の実績等々を踏まえれば、能力に欠けるとは判断していない」とも述べ、改めて処分はしないという考えを示した。
この財務省の対応へ強く抗議したのが野党の女性議員たちだ。財務省で上野賢一郎副財務相と面会し、「財務事務次官のセクシュアルハラスメント報道に関する申入れ」を提出した。麻生氏の「緊張感をもって行動するように」という注意について「的外れなもの」とした上で、「自らの監督者としての責任感が欠如していると言わざるを得ない」と指摘。麻生氏に対して以下の点を求めた。
1.報道されたセクハラ行為の事実関係についての調査と公表を速やかに行うこと
2.調査の結果、事実であることが判明した場合、福田財務事務次官を更迭すること
音声データの公開
13日午後、事態は大きく動く。新潮社が運営するwebメディア『デイリー新潮』が、福田氏のものとされるセクハラ発言が録音された音声データを公開したのだ。動画には発言内容のテロップがついており、女性記者の声はカットされている。
女性記者の発言として「記者が森友問題をたずねると」とテロップが表示された後、福田氏とされる男性の声で「今日ね、今日ね…抱きしめていい?」と続く。氷を砕くような音や、ガヤガヤとした話し声も聞こえる。他にも男性の声で「手を縛ってあげる。胸触っていい?」などと発言する様子が録音されており、それらに対する女性記者の発言として「だめです」「そういうこと本当やめてください」などのテロップが表示されていた。
音声データの公開を受け辞任論が高まる中、福田氏はそれまで貫いていた沈黙を破り週末明けの16日朝、自宅前で記者団に対し「週刊誌報道の件については今日中にコメントを出します」と述べた。同日昼過ぎ、財務省は「福田事務次官に関する報道に係る調査について」と題された福田氏への内部での聞き取り調査の内容も含めた文書を発表する。この文書に対しても批判が起きている。
「お店の女性と言葉遊びを」という言い訳
財務省の聞き取り調査で福田氏は、音声データの男性の声が自身のものであるかについては明言せず、報道内容を否定。週刊誌報道は事実と異なるものであるとして、出版元の新潮社を提訴すべく準備中であると述べている。
また、「音声データからは、発言の相手がどのような人であるか、本当に女性記者なのかも全く分からない。また、冒頭からの会話の流れがどうだったか、相手の反応がどうだったのかも全く分からない」とした上で、「普段から音声データのような話をしているのか」という質問項目では「お恥ずかしい話だが、業務時間終了後、時には女性が接客しているお店に行き、お店の女性と言葉遊びを楽しむようなことはある」とも答えている。
この回答は音声データの発言の相手が女性記者ではなく、“女性が接客しているお店の女性従業員”であるという印象操作にもなりかねないものだ。後述する通り、福田氏のセクハラを告発した女性のひとりがテレビ朝日の社員であることが判明している。福田氏は音声データの女性が誰であるかわかっているにもかかわらず、こうした発言をしていたことになる。あまりにも卑怯だ。
またこの発言は、会話の相手が”女性が接客しているお店の女性”であれば問題ないというようにもとれる。相手の職業が何であってもセクハラはセクハラだ。音声データのやりとりを”悪ふざけの回答をするやりとり”とも表現しているが、セクハラ被害を単なる悪ふざけであると矮小化し、軽視する発言で言語道断だ。
1 2