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ワンオペ育児を「ポジティブに捉えよう」というメッセージすらも、追い詰められた当事者を苦しめかねない

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Thinkstock/Photo by Koldunov

 416日、オリックスグループが主催し朝日新聞社が後援している公募「第2回 オリックス 働くパパママ川柳」の結果が発表された。574作品の中から大賞に選ばれたのは『ワンオペも 逆手に取れば ひとりじめ(28歳女性、埼玉県)』という作品。ネット上ではこの大賞選出に疑問の声も出ていた。ワンオペ育児を当事者(この場合は埼玉県の28歳女性)がポジティブに捉えることそれ自体への非難ではなく、第三者が「ポジティブに考えて頑張ろう」と促しているように感じられることが、疑問視された最大の理由だろう。

 大賞の作品から読み取れるメッセージは、ユニ・チャーム「ムーニー」の動画や、絵本作家のぶみが作詞した楽曲「あたしおかあさんだから」と似ている。育児は大変だけど我が子への愛おしさ(今回の場合は“ひとりじめ”という表現)で乗り越えられるよ、と。2013年4月に安倍晋三首相が成長戦略のスピーチで提案した「3年間抱っこし放題」にも共通する。

 「3年間抱っこし放題」とは、法定育児休業を最長1年半から3年まで延長する内容だったが、仕事を持つ母親が、出産から子供が3歳になるまで仕事を休めば良いという提案は、性別役割分業を強化し男女雇用機会均等法を無視した退行的で軽率なものと言わざるを得なかった。

 現状、家族や周囲の協力を得られず、両親のどちらかが一人で育児を担わなければならない(ワンオペ育児)環境は、そこかしこにある。育児を楽しめる人も、「自分ひとりで育児に向き合うんだ」と納得して受け入れ頑張る人も、子供の成長すべてを自分の目で見たいからワンオペ育児で幸せだという人もいると思う。その一方で、体力がもたず心身ともに疲弊してしまっている人、「親は二人なのになぜ自分だけが」と理不尽な思いに駆られている人、仕事を辞めるつもりはなかったのに辞めざるを得なくなり茫然自失の人……中には、精神的に追い詰められギリギリのメンタルで綱渡りの日々を過ごしている人も確実にいるのだ。それゆえ、「ポジティブに捉えれば乗り越えられる」というメッセージすらも、当事者を苦しめるものとして作用しかねない。

 個人的には、育児に限らず、困難なものをポジティブ啓発で乗り越えようと推奨すること自体に批判的だ。当事者自身がそのように判断することはともかく、まわりがそれを勧めるべきではないと考える。

いかに育てやすい社会にしていくか

 「第2回 オリックス 働くパパママ川柳」は“働きながら子育てに奮闘するパパとママの日常をテーマとする公募川柳”であり、公式サイトには“オリックスグループは、職場や家族の理解と協力を得ながら仕事と子育てを両立しているパパとママを応援する企業として、本企画を通して、多くの人が子どもを育てながらいきいきと働き続けられる社会の実現を呼びかけていきます”とある。

 総評では、特別審査員の1人である蛯原英里氏(38/モデル・蛯原友里の一卵性双生児の妹で、日本チャイルドボディケア協会代表)が「大賞の『プラスに転換できる発想』に、背中を押される人は多いはずです。仕事と子育ての両立は、時に大変さばかりに意識が向いてしまいますが、前向きな思いや喜びを大切にしたいですね」と述べている。

 繰り返しになってしまうが、「プラス」「前向きな思い」「喜び」を大切にして、仕事と子育ての両立やワンオペ育児の大変さやしんどさを乗り切ろうとしている親もいるだろうし、そちらのほうが多くて、普通で、一般的なのかもしれない。が、現状の困難さをもはや無理矢理プラスに転換しなければやり切れないという心境もあろう。

 イチ・ワンオペ育児中の親である私個人としては、ワンオペ育児は肉体的にも精神的にもハードに感じる側面と、パートナーだったり自分の親だったり義両親だったりに口出しされない気楽な側面を併せ持っていると感じている(あくまでも私の場合だが)。自覚がないだけで、我が子を「ひとりじめ」できて救われている部分もあるのかもしれない。そう考えれば私にとってはワンオペ育児もメリットがあるわけだが、なぜか大賞作品には心惹かれなかった。それはやはり、この川柳そのものが問題なわけではなく、大賞に選出するということが、「つらいです」と訴えている当事者に発想の転換を促しているようで問題含みだと感じたからだ。個人の発想の転換によって、育児を乗り越えることを後押ししないでもらいたい。

 逆に、今回の公募の受賞作品で最も共感したのは、優秀賞の『電チャリと スマホアマゾン 救世主(40歳、男性、東京都)』。苦労を軽減させる文明の利器は素晴らしい。大変さの中から喜びを見つけるとか前向きに考えるとか、そういう発想も否定しないが、「多くの人が子どもを育てながらいきいきと働き続けられる社会」は精神論で実現可能なものではない。いかに「育てやすい社会」にしていくか、だろう。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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