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出産・育児によって広がる男女間の賃金格差 社会はキャリアの在り方を見直す必要がある

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 なぜ女性の賃金は男性よりも低いのでしょうか?

 本連載の1月と2月の記事で職場におけるスキルの活用に女性差別がある可能性に言及しました。

学校教育だけでは教育問題を解決できない。女子教育の促進を阻害する男女の賃金格差
日本の女性は職場でフェアに扱われていない。学歴やスキルの差だけでは説明できない男女の扱われ方の違い

 しかし、教育やスキルの活用以外に、もう一つ男女間の賃金格差を生んでいる要因があります。それは出産です。妊娠中や出産直後の体調の変化を考えれば、この間のスキルや経験の蓄積に男女差が出てしまうのは避けられません。それをどの程度緩和できるのかは産休や育休などの社会制度や、女性に対するサポートなどの企業の在り方、夫婦間での育児の在り方などに依存します。

 そこで今回は、社会制度や企業の在り方を考えるために、まず出産によって男女間の賃金格差がどのように変化し、どのような特徴を持つのかを、昨年の11月に発表されたアメリカの事例に基づくワーキングペーパーの結果から見ていきたいと思います。

 なお今回使用する図はすべて「対数」を使っています。対数とはなにか、なぜ対数を使用するのかについての説明は省略しますが、これらがわからなくても図の見方がわかるような説明を心がけたので安心して読みすすめてください。

子供の誕生による賃金の減少は女性にしか見られない問題

 まず男女それぞれの賃金が、子供の出産と共にどのように変化していくのかを見ましょう。

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 図1は、男女それぞれの賃金の対数が、出産の前後でどのように変化しているのかを示しています。

 出産する2年前の賃金を基準点(0)とした場合、男性の賃金は子供の誕生に影響されることなく、仕事を通じて知識やスキルが蓄積され、賃金も順調に上昇していきます。これに対して、女性の賃金は出産した年とその次の年に減少しています。アメリカの大半の州では、産休・育休の期間が短いだけでなく、この間の給与は保障されていないので、この出産後2年間の大幅な賃金の低下はこれに拠る所だと考えられます。しかし、問題なのは出産の2年前の賃金に戻るのには9年もの時間を要している点です。

 夫婦間の賃金格差を分析した結果によると、図1と同様に出産した年とその次の年に夫婦間の賃金格差が急拡大し、その後子供が小学校に入学するまで賃金格差は緩やかに拡大し続け、子供が小学校に入学した辺りから緩やかに縮小していきます。しかし、回復するペースがあまりにも緩やかなため、子供が高校に入る頃になっても、最初の2年間で急拡大した夫婦間の賃金格差すら回復できていません。これらのことは、出産後の賃金格差が、出産・育休によるキャリアの中断から派生する知識やスキルの蓄積以外の要因によっても影響を受けている可能性を示唆しています。

子供の人数が多い夫婦ほど、夫婦間の賃金格差が大きくなる問題

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 夫婦間の賃金格差の在り方は、子供の人数にも左右されます。図2は子供の人数別に、夫婦間の賃金格差が第一子の誕生からどのように変化していくのかを示しています(数値が高ければ高いほど、夫婦間の賃金格差が大きくなっています)。

 子供の人数にかかわらず、やはり出産した年とその次の年に夫婦間の賃金格差は急拡大します。子供が二人いるケースが先ほどの結果に最も近く、子供が小学校に入学するころまで夫婦間の賃金格差が拡大し続け、その後緩やかに縮小していきます。

 子供が3人以上いるケースだと、第一子が小学校を卒業するころまで夫婦間の賃金格差は拡大し続け、その後の縮小幅も小さなものとなっています。興味深いのは子供が一人しかいないケースです。子供が複数人いる場合と異なり、最初の二年で夫婦間の所得格差が急拡大した後の、緩やかな夫婦間の所得格差の拡大が存在しません。

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畠山勝太

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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