出産・育児によって広がる男女間の賃金格差 社会はキャリアの在り方を見直す必要がある

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女性のキャリアの構築と出産のタイミングについて

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 夫婦間の賃金格差は、第一子の出産年齢にも影響されます。図3は、第一子の出産年齢別に、夫婦間の賃金格差が第一子の誕生からどのように変化していくのかを示しています。

 どの出産年齢でも、出産した年とその次の年に夫婦間の賃金格差は急拡大するのですが、第一子の誕生が35歳以上の場合は、直ぐにそれが縮小に転じ、子供が高校に入学するころには、夫婦間の賃金格差は出産前と同じ水準にまで落ち着きます。

 このケースは、図2でみた子供が一人だけの動きと近くなっています。第一子の出産年齢と子供の人数の間には相関関係があります。35歳以上の場合、他の出産年齢よりも子供の数が少ない可能性が高く、子供が一人だけのケースと似たような動きになっていることが考えられます。ただし35歳以上で第一子を出産しているケースは、子供が一人だけのケースと違って、15年目には夫婦間の賃金格差が出生前の水準にかなり近づいています。この違いは注目に値する点でしょう。

 私がかつて勤務していた世界銀行の女性職員の初産の平均年齢は40歳近いという話を聞いたことがあります。また米国の女性研究者の中にもそれぐらいで出産する方を見かけます。両者に共通するのは、ある程度キャリアが出来てから出産しているという点です。

 国際機関の職員は数年ごとに契約をつないでいく不安定な雇用ですが(私もこれまでに6回契約書にサインしました)、最大の難関は2回目の契約だと言われています。また研究者にとってテニュア(終身在職権)を取れるか否かが最大の難関です。40歳直前は、これらを潜り抜けた後であり、ある程度キャリアを築いてから出産しているために、出産後の賃金の減少が回復しきれていると考えられます。

 一方、30代前半や20代後半で出産した場合、子供が二人いる場合の夫婦間の賃金格差と似た経路を辿っています(先ほども説明した通り出産年齢と子供の人数には相関関係があります)。図をみれば、30代後半で出産した場合と比べて明確な差が存在していることは一目瞭然でしょう。

 これも自分の経験と照らし合わせて考えてみると、この年齢は国際機関の職員であれば最初の契約を取る辺り、研究者であればポスドクからテニュアトラックに挑戦し始める辺りであり、ちょうどキャリアを築き始めている段階にあります。このため、この段階での僅かなキャリアの中断が大きく影響しているのではないかと思われます。

 先ほどから例に出している国際機関や大学の研究職は、大学院を卒業していることが前提条件なので、一般の企業よりも数年ほどキャリアが後ろ倒しになっていると考えられます。ただ恐らく一般の企業でも同様のことが数年前倒しで起こっているのではないでしょうか。

 興味深いのは20代前半で出産した場合です。この層は、20代後半や30代前半で出産した層よりも平均して子供の人数が多くなるので、2人または3人以上子供をもうけた場合の夫婦間の賃金格差と似たような経路を辿ると直感的には考えられるのですが、それに大きく反して30代後半以降に出産した場合と似たような経路を辿っています。

 これには二つの理由が考えられます。一つは、学歴の高くない女性ほど出産後の賃金減少幅が小さくなりがちなのですが(出産によるキャリアの中断の影響が大きい)、初産の年齢と学歴の間にも相関関係が存在しているので、この影響を初産の年齢が拾ってきていることが考えられます。もう一つは、20代前半はまだ本格的にキャリアを築き始める前であり(日本の第二新卒という言葉はこれを的確に表現しています)、キャリアの中断の影響が小さいことが考えられます。

まとめ

 今回ご紹介したのはあくまで米国の話です。しかし米国の対極に位置するともいえる北欧の福祉国家でも同様の結果が見られています。

 最初の2年間で発生する女性の賃金の減少は、出産に伴う体調の変化を考えるとある程度仕方のない事なのかもしれません。しかし、子供の誕生による賃金への影響が男性には全く見られない一方で、女性が出産前の賃金水準に戻るのにかなり時間を要していることから、子供の誕生によって働き方や働き口を変えるのは女性ばかりで、一般的に男性は育児によって働き方をほとんど変えていないことが世界的にみられる現象であることが示唆されます。

 また、社会全体として個々人のキャリアの在り方を見直すべき時に差し掛かっているのかもしれません。今後ますます定年や年金支給の年齢が後ろ倒しになっていくのに対し、女性の閉経の年齢は後ろ倒しになることはありません。これらと併せて少子化問題を考えると、キャリア形成の重要な時期がもう少し後ろにシフトして、女性がキャリア上大きな不利を受けることなく出産できる社会を築いていく必要があるのかもしれません。ただし、日本では賃金と婚姻率の間にも高い相関関係があるので、キャリアが後ろ倒しになった分、若年層の雇用が脆弱になってしまうと元の木阿弥に化す恐れがあるので、より包括的な対処が必要になると考えられます。

 いずれにせよ、出産と賃金の問題は複雑です。米国のように社会保障が崩壊していてもダメですし、北欧のように充実しすぎていてもキャリア形成に良い影響は出ません。日本ではこの出産と労働に関する複雑な問題に対して、「3年間抱っこし放題」というあまりにも稚拙なフレーズが飛び出しました。特に少子高齢化が進む日本では、社会や政治がこの複雑な問題に対して稚拙なフレーズでお茶を濁している猶予はなく、他国以上に真剣な取り組みがなされなければならないでしょう。

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