寺島しのぶは鬱屈した情念を演じたら天下一品の女優!『ヘッダ・ガブラー』で男性を破滅させる美女

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 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 さて一億総活躍のモットーのもと、女性の社会進出の後押しが叫ばれていますが、結婚や出産によってキャリアや自由を制限されてしまうのが、まだまだ日本の女性の現実です。思い通りにいかない人生にイラついたり退屈したりした経験は、誰もが身に覚えのあるものではないでしょうか。

 一方で、有名人のスキャンダルを報じるネットニュースから知人のSNSまで、気に入らないと思った誰かへの罵詈雑言をインターネット上に書き込むことで、相手の人生を左右することすら可能なのが、現代社会です。その結果、相手が不幸な目にあったとしても、他者を支配したという暗い喜びに、人生へのイラつきがちょっとだけスっとする……。もっともその心理は、男女は関係なく共通するものでしょうが。

「一度でいいから、この手で人の運命を変えてみたい」。一見すると美しく前向きにもとらえることができるセリフで、人間のそんな暗い気持ちをノルウェーの劇作家ヘンドリック・イプセンが今から100年以上も前に描いています。

 作品は現在上演中の「ヘッダ・ガブラー」。容姿や環境に恵まれながらも閉塞感にさいなまれているタイトルロールの女性を、鬱屈した情念を演じさせたら天下一品の寺島しのぶが演じています。

「ヘッダ・ガブラー」は、世界でシェイクスピアに次いで上演回数が多いといわれているイプセンの後期の作品で、1890年に発表されました。

退屈な結婚生活に、変化が。

 偉大な将軍ガブラー氏の娘で、社交界で数多くの崇拝者を従えていた美女ヘッダは、将来を嘱望される学者のイェルゲン・テスマン(小日向文世)と結婚。イェルゲンの研究旅行も兼ねた長い新婚旅行から帰宅した新居は婚前のヘッダの希望で無理に購入した豪華な屋敷ですが、彼女は終始不機嫌で家への不満をいい続け、夫の身内へも失礼な態度を隠しません。

 そこへ、ヘッダの同窓生で田舎の名士の後妻になったエルヴステード夫人(水野美紀)が、イェルゲンを訪ねてきます。彼女は、イェルゲンのかつてのライバルであったエイレルト・レーヴボルク(池田成志)を探していました。アルコール依存症で持ち崩していたレーヴボルクは、エルヴステード夫人との出会いと協力で本を執筆し大評判を博していましたが、実は彼はヘッダの元恋人。退屈しているヘッダは、とまどうエルヴステード夫人をつかまえて、レーヴボルクとの関係と彼女のあまり恵まれているとはいえない結婚生活について喜々として聞き出します。

 寺島しのぶは正統派の美人とはいえない外見と評価されていますが、舞台で観ると絶世の美女にみえる、まさに生粋の舞台俳優です。しかめつらで、いらだちのままに部屋に飾っている花を投げつけても決して下品ではないさまが、ヘッダがセレブ育ちであることをしっかり表現していました。

 父親が他界して庇護者がいなくなったことと、年齢を重ねて男性からちやほやされることが減ったために結婚をしたけれど、自由を愛する彼女にとってそれは不本意なこと。自分を深く愛し尽くしてくれるけれど鈍感な夫や距離感の近すぎる親族に、こんなはずではなかったという絶望と閉塞感に苦しんでいます。

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